「では!では!拙者、お風呂を…。マキはどこでござるか?マキを焚くのは得意でござる!」

ま、マキ?!
ちょっと待ってーっ!!

走り出そうとするサットリくんを、必死で止めた。


「もう、なんにもしなくていいから、ね。うん、もう、わかったからさ…」

「なんにも…。」


みるみるうちに、立ち尽くすサットリくんの目に涙が浮かんだ。


「また、失敗したでござるな…。」


「いや、いや、大丈夫だよ?!ホントに!やってくれたその気持ちだけでじゅうぶんだよ?!」


アワアワしながら慰める。


おかしいな、智くんは基本、器用な人だから、
料理だって洗濯、掃除だって、もっと手際よく出来るはずなのに…。


わざと失敗して、俺が怒るのを撮ろうとしてるドッキリなのかな?
とも、考えたけど…。

この、サットリくんの顔。

涙目で、本当にがっかりしているようだった。


への字口はもっとへの字になって、ぷるぷる震えている…と思ったら、
どんぐり眼から、ぼろぼろっと涙が溢れ出た。


「拙者…、拙者、失敗ばかりでござる…。
せっかく、いつもお世話してもらってるサクライうじに、ご恩返しをしようと思ったでござるのに…。
ぜんぜん、で、でき、できないでござるぅ…。」


うわーん、と、声を出して泣き出した。



「サットリくん!!」

俺は、思わずサットリくんを抱きしめた。

泣いている頭をナデナデする。


「大丈夫だから!泣かないで?

俺の方こそ、いつもサットリくん…智くんにはお世話になってるし、癒されるし、助けられてるし…
頭が上がらないよ!
だから、泣かないでいいんだよ?

ね、サットリくん。」


いつの間にか、つい、智くんについて語っちゃってる俺…。
泣きべそかいて丸まっちゃってる背中を、ポンポンする。
赤ちゃんをなだめるみたいに。

抱きしめた智くんからは、いつもの、甘い赤ちゃんみたいな柔らかい匂いがしていて…。

やっぱりサットリくんは智くんだよね?って思う。



辻褄の合わないところはあるけれど、
うん、やっぱり智くんだ…。

俺は、カメラの存在も忘れて、しばらく智くんを抱きしめていた。



.しばらくすると、モゾモゾっと身動ぎし出すサットリくんこと、智くん。


「苦しいでござる…。」

「あ、ごめん!」

見ると、涙と鼻水と、泡と調味料でドロドロになっている。


ププッ。

思わず笑ってしまった俺を、非難するように見てくるのを見て…。


うん。
可愛いよね。
当然、可愛いよね…。


……。じゃなかった。


もう!いちいち脱線する俺の脳!
バカ!バカ!
でも、可愛すぎる智くんが悪い!
バカ!バカ!


ひとりで身悶えしてる場合じゃなかった。



「ねえ、サットリくん?
なんだか凄いことになっちゃってるしさ、お風呂、入っといでよ。
あ!マキは要らないからね!俺がするから、まってて?」


冷蔵庫からペットボトルのお茶を出して、グラスについで渡す。

「ちょっと待ってて?」

「うん…。」

ションボリ顔のサットリくんを待たせて、手早く風呂の用意を済ませると、俺もお茶を手に隣に座る。



「サットリくん、いろいろありがとうね?」

「なんにも出来ず…申し訳ないでござる…」

この期に及んでキャラ守り通すつもりなのかな。

もう撮れ高バッチリじゃない?
そろそろネタばらしの時間じゃないの?

そう思いながらも、なんだか、このサットリくんが可愛くて仕方なくなってきた俺。


「失敗ばかりだったでござる…。」

俯くサットリくんに、

「一生懸命やろうとしてくれたことが、嬉しいよ?」

できる限りの優しい声で言う。

「それに、お礼なんて必要ない。
さっきも言ったけど、俺、智くんに…サットリくんに、いっぱい助けてもらっちゃってるから。
こっちこそ、お礼しなきゃならないくらいだよ。」


「サクライうじ……。」


ああ、可愛いな。もう一度、抱きしめたいな…。

そんなことを思っていたら、お風呂がわきました、ってアナウンス。


「ほら、お風呂、入っといで?」

「お風呂…。

そうでござる!サクライうじ、お風呂、一緒に入るでござる!」

ぶっふぉ!!!
思わず飲みかけたお茶を吹き出す。


「拙者、お背中流すでござる!!」


キラキラキラ…と純粋な瞳でこちらを見られて、
うん、一瞬ヨコシマな考えを持って、ごめんなさい、て感じで…。