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「はい、食ってみて」
コトリとテーブルに皿を乗せて、智くんは俺の向かい側に座った。
仕事の合間にちょこちょこと、ちょっとした料理をするのが最近の楽しみだって言ってた智くんが並べてくれた料理は、さすが器用な人らしく、見た目も綺麗で美味そうだった。
「…美味い」
「ほんと?良かったー、初めて作ったやつだから、味わかんなくて。
じゃ、おれも食おーっと。」
「なにそれ、毒味?」
「ひと聞き悪いなぁ。味はわかんねーけど、安全性は自信ありますぅー」
「ふふ、なんなの…」
「いいから、いっぱい食ってよ。ね。」
智くんの料理は、なかなかの味で、つい腹いっぱい食ってしまった。
あったかい手料理は、心の中まであったかくしてくれるような気もする。
「ふふ。相変わらずしょーくんの食いっぷりは気持ちいいなぁ」
「詰め込みすぎって言いたいんでしょ」
「いや、それがいいんだよ。うまそうだなーって思うし。」
食後のコーヒーを飲みながら、ふふふっと笑い合う。
「やっぱしょーくんはさ、そうやってガツガツメシ食って、デカイ声で笑ってんのがいーよ。」
手にコーヒーの入ったマグカップを持ちながら、こっちを見て優しく笑う。
俺も、手に持ったマグカップから、湯気がゆらゆらと揺れるのを見ていた。
ここ最近…眠れない日々が続いていた。
メシも…
こんなにちゃんと食ったの、久しぶりかもしれない。
そういうとこ、この人はよく見てるんだよな…。
普段はボーッとしていて、のんびりした雰囲気の智くんは、成り行きでリーダーになった、とか、影のリーダーは櫻井だ、なんて言われることもあるけど、とんでもない。
嵐のリーダーは、この人以外に考えられない。
先頭にたって引っ張るようなタイプではないけれど、後ろから、俺達の行く道を見守っていてくれる。
この人がいるから、俺達も安心して道無き道を進むことが出来るんだ。
昔からだけど…この人の顔を見ていると、なんだか気持ちが穏やかになって、ささくれ立った心も楽になってくる…。
「しょーくんのさ、その顔の原因は…ニノ?」
はっとして、顔を上げる。
「ハハッ、なんで…?」
平気なふりをして答えよう、と思った声は、弱々しくかすれていて…自分でも驚いた。
「うん。だって、ニノもおんなじ顔してたから。」
「ニノが…?」
「しょーくん、最近、ニノの顔、ちゃんと見てるか?」
「………。」
「こないだまで、スッキリしたいい顔してたのに。ニノ、消えちゃいそうな顔してたぞ?」
ズルズルと音を立てて、コーヒーを飲む。
「まあ、おれがどうこう言えた立場じゃねーけど。」
そう言って、ふにゃっと笑う智くんを見ていたら…。
なんだか、もやもやとしたこの胸のうちを聞いてもらいたいって思いが溢れ出てきて、たまらなくなった。
この人なら…受け止めてくれるって…。
強くいなければならないって…舐められちゃいけない、隙を見せちゃいけない、って、俺が着ていた鎧を、その暖かさで脱がせてくれる人。
いつも、智くんの前では、素直にならざるを得ないんだ。
「智くん…。」
「ん?」
「俺…。
俺はさ、ただアイツにしあわせになって欲しくて。
アイツが笑顔でいてくれたら、それでいいんだ。
今は…。ずっと想っていたやつに、アイツの気持ちが届かなくて、それで、寂しくて誰かに縋りたくなっていただけかもしれないし、
気の迷い、かもしれない。
俺よりも、アイツを理解してるやつが、いるかもしれないし…
それに、本当は…
本当は、可愛い女の子と一緒になって、結婚して子どもを作って、そういう…
そういう未来に行ける…チャンスなのかも、しれなくて…。」
話しながら、声が上擦る。
ぽたぽたと、熱い雫がマグカップを持つ両手に落ちた。
カップの中のコーヒーにも、波紋が広がる。
「今は…。寂しい時に近くにいた、俺に、絆されて…そんな気になってるだけかもしれないから…。
だから、…だから、ダメなんだ。俺は…俺じゃ、ダメ、なんだ…。」
震えた声は、いつしか嗚咽となって、止められなかった。