《side N》



潤くんと仲直りさせてあげたくて、相葉さんちで潤くんに電話して、
ゆっくり話しなよ、って帰ってきて。


俺って恋のキューピッド?なんてちょっとニヤニヤして。
風呂入って酒飲んで。
ちょっと寂しくなってちょっとだけ、泣いた。




で。




このまま寝よっかな、と思ってたんだけどね、
なんだろ、急に思い立ってコンビニ行こうと家を出たの。
なんなんだろ、虫の知らせってやつ?
で、家を出たところで、マンションの前で不審者のようにウロウロする相葉さんを見つけた。と、いうわけ。


今、俺んちのソファーに座ってその相葉さんがぐじゅぐじゅと泣いている。


なんなのよ…。




「ちょっと…、アンタ、さっき別れたばっかじゃないのよ…」

「だって…ニノぉ…」

「どうしたのよ……。仲直り、ってか…気持ち、伝えられなかったの?」


ソファーの隣に座って相葉さんの顔を覗き込む。


「素直に気持ち、伝えてないの?」


「…伝えたよ…。オレ、潤くんに…別れようって、言ったんだ…」

「はあ?!」






要領を得ない相葉さんの話で、なんとなく伝わったところは…。


相葉さんが別れ話をして、それに潤くんが怒ってもめて、
ケンカになって飛び出してきて、
そういえば自分ちだった、って思って、
こういう時はいつも俺んちに転がり込んでたけど、さすがにさっきの今で行くのもためらわれて、
でも行くとこもなくて、どうしよう、どうしよう、とウロウロしてた、らしい。




はぁー······
思わずデカイため息が出た。


もう、何からつっ込んでいいやら……。



「アンタさぁ…。
潤くんと、ちゃんと話せって言ったじゃん…。
なんで別れ話になってんのよ。」


「だって…」

真っ赤な目の相葉さんが、チラッとこっちを見る。
俺より背の高いはずなのに、なんだか上目遣いで、
俺は、今まで何度となくこの表情に絆されてきたか…。




「だって…。
オレ、欲張りなんだ…。

欲張りで、我儘で…。

だって、オレ、オレ…

潤くんも好きだけど、ニノのことも大好きなんだもん。

もちろん、おーちゃんも、しょーちゃんも、
みんなの事が大好きで…

だから、みんなの笑顔を守るために、
元に戻さなきゃって…おもってぇ…」


ぐじゅぐじゅと泣きながら、懸命に話す相葉さん。

もう、この人は…。


俺は、相葉さんの目をしっかり見て、言った。


「相葉さん?

みんなが笑顔になるために?

じゃあ、アナタは?

潤くんと別れて、笑えるの?

潤くんは?

あんなにアンタのこと好きだって、溢れ出しちゃってるじゃん。

あの人のこと、捨てられるの?

わかってるんでしょ?

もう、元になんか戻れないんだよ。
走り出しちゃったらね、気持ちは、元には戻らないよ。

変わっていくことはあってもね…。」


「ニノ…」



「相葉さん、アンタはさ、そんな難しいことごちゃごちゃ考えなくていいんだって。
気持ちのままに、走っていけばいいんだ。」


「でも…」


「俺は、
…俺はさ、アンタが俺のこと、考えてくれて…悩んでくれて、
それで、充分だよ。」


「ニノ……。ごめん、ごめんね……。」


「ふふ。何言ってんの。
謝ることないって。」



泣く相葉さんの頭をポンポンと撫でながら、俺は、俺の心は意外なほど穏やかだった。


この人を想うあの気持ち…。
無くしたくない、離したくないと思う独占欲、
俺だけが知ってる相葉さん、
俺だけに見せる相葉さんの顔、
そういうものへの優越感、
一緒にいる時の浮き立つような高揚感、
大切に思う気持ち。


今まで俺を縛り付けていたそういう気持ちそのものが、

今思うと、ほんとうにそれは恋だったのか?とさえ思えるんだ。



例えるなら…
かわいい、手のかかる弟を大事にしたいような気持ちというか…。

ふふ。そんなこと言ったら、『何言ってんだよ!オレの方が年上なんだから、お前が弟だろ!』って怒鳴られそうだけど。


うん、まあ…。

かっこいい自慢のおにいちゃんを、自分のものにしておきたいというか、
そういう気持ちに近かったのかな、なんて、
今になれば思うんだ。


唯一無二の親友、
親友を超えた、家族よりも近い存在。

そんな、特別な存在でありたいって思ってた。


それは、恋と、最上級の友情との境目。

その曖昧な境界線の、真上にいるような状況だったのかもしれない…。


そしてその針は、親友の側に振れたんだ。
そう、思うんだ…。




俺は、そのまましばらく相葉さんの背中をさすっていた。


大事な兄弟の、幸せを祈って。










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