《side N》




翔さんは、言葉どおり翌日には退院した、らしい。
すぐ仕事にも復帰して、元気に働いている、らしい。
それでも、少し仕事はセーブして、前ほどはキツキツにはしていない、らしい。




…全部、推定の話し方なのは、翔さんのマネージャーから、俺のマネージャー経由で聞いた話だからで。
つまり、あれ以来まだ、翔さんには会ってない。





あの晩。
俺が病院に駆けつけた夜のことを…俺は、真剣に考えた。




なんで、俺はあんなに焦ったんだろう?

なんで、夜中なのに慌てて駆けつけちゃったんだろう?

あの時…もし、マネージャーが来なかったら…

俺は、何を言おうとしてたんだろう?




なんなら、毎日。毎時間。暇ができる度に、考えた。

その答えを出す前に。

俺は、あのひとに会わなくちゃ。











チャイムを鳴らす。
俺からここに来るのも、久しぶりだな…。


「ニノ、いらっしゃい」


突然来たというのに相葉さんは、笑顔で迎えてくれた。




「お腹すいてる?なんか作ろうか?」

「んー、いい。食ってきたから…。」

「じゃ、なんか飲む?ビールでいい?」


そう言いながら缶を冷蔵庫から2本取り出して、ひとつを俺に手渡した。


「ありがと…。」

「旨いツマミ、教わったんだ~。ちょっと待ってて!あ、飲んでていいからね!」


プシュ、といい音を立てて缶を開けて、ニノも早く開けて!と俺を急かしてから、軽く俺の缶に乾杯するように当てたあと、キッチンへ向かう。


冠番組のおかげですっかり包丁捌きがうまくなった相葉さんは、そのまま飲みながら慣れた手つきで料理をする。


俺は、リビングのソファーに座って、見るともなしにその様子を目に映していた。


ほんの数分で、旨そうな料理が並ぶ。
腹なんか空いてなかったけど…あんまりいい顔で相葉さんが、どーぞどーぞと勧めるから、1口もらう。
うまいな…。




「で?話す気になったの?」


しばらく、黙々と飲んで、食べて。
テレビからは、バラエティ番組の笑い声。
時々相葉さんも、テレビに出てる芸人さんと一緒に笑ったりしてて。

CMのタイミングで、聞かれた。



「この間、言っただろ?今度聞くからな、って。」

「うん……。」




俺の様子を見て、テレビを消した相葉さんは、俺の顔をじっと見た。

優しい笑みを浮かべて。
なんでも包み込んでくれるような…お兄ちゃんの顔。

俺のよく知る、相葉雅紀の顔。
テレビのそのままのようでいて、ちょっと違う。
俺だけが知ってる…。




「ねえ、相葉さん。潤くんとは、どう?」

「ええっ、何?どう、って…」



意外な質問だったのか、動揺してる。



「仲良くやってんの?」

「なんだよ、もう…。何聞いてんだよ、今日はニノの話聞くんだってば!」

「潤くんのこと、好き?」

「えっ、」

「ねえ、好き?」



ぽんっ、て音が出たみたいに、瞬間で真っ赤になった相葉さん。
目が泳いでる。



聞かせてよ。まーくん。
ちゃんと、聞かせて?



「うん…。好き。」


俯きながら、照れて。汗だくじゃないの。


「潤くんも?潤くんも、相葉さんのこと、好きだって?」

「もう!何を聞くんだっつってんの!いま、関係ないだろ?」


「関係あるよ!




  俺は!




……俺はさ。


相葉さんのことが、好きだ」





しん、と部屋の空気が止まった。
空調の、ぶうん、ていう低い音が聞こえるほどに。





「ニ…ニノ、」

「ずっと前から。出会った頃から。
相葉さんが、好きだったんだ。」



じわじわと、相葉さんの目に涙が浮かぶのが見える。
俺の大好きな、黒目がちの大きな目。
いつもは三日月型になって、笑いジワを作るその目も、今は、大きく見開かれて。
目の周りも真っ赤だ…。
ごめん、泣かせちゃったね。俺の勝手に、付き合わせて、ごめん。



「ニノ、オレ、」

「わかってる。相葉さんの隣には、潤くんがいるんだって。わかってるよ。
だけどさ…。
俺、この想いを昇華させないと、この先どうしたらいいのか、わかんなくてさ。
前にも後ろにも、進めないから…。」




だからさ、まーくん。
お願いだよ。
俺の想いを、俺を、斬って?
俺にはもう、でっかくなりすぎちゃって、
自分では、どうしようもできないんだ。
このままじゃ、飲み込まれて、俺、どうしていいのかわからなくなっちゃう。





だから、

ひと思いに、

終わらせて、

ください。





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