「あー、ほんっと今日は1人の仕事で良かった…」




収録の間、前室で独り言。

昨日の今日でいったい、どんな顔して翔さんに会えばいいのよ。
いくら演技力の高いニノちゃんでもよ?
最も秀でた俳優の賞を戴いたワタクシでもよ?
ちょっと高度な技術を要すると思うのよね…。





「なんや、ニノ、独り言なんか言って」


共演する芸人さんがニヤニヤと突っ込んでくる。


「さっきっからため息ついたり独り言言ったり、なんや、なんかあったんか?
ゲームもあんま進んでないんちゃうん」


「別に何でもないっすよ。なんかあってもアンタには言わないし」


「冷た!冷たいわぁーニノー!」


なんかギャーギャー言ってるけどゴメン、それどころじゃないのよ。
俺、考えることいっぱいありすぎ。



「ほんま、なんか悩んでるんちゃうん?
あ、アレか、コレやろ」


ニヤニヤしながら小指を見せる。


「だからー、なんかあってもアナタには言いませんから」


「そっかー、オンナかー!さすがやなー、イケメンはちゃうなー。
ヘンなオンナにひっかかっとるんちゃうやろな。
スキャンダルはアカンで!気ぃつけな。な!」


「バッカ、そんなんじゃ…」


言いかけたけど2本目の収録が始まるって声で芸人さんはさっさとセットに行っちゃった。
はぁ、もう。
ホント下世話!!
普段だったら一緒に笑えるような話も、今の俺にはちょっとカチンと来てた。
ヘンなオンナって。
そんなんじゃねーし。



ぽん、と頭の中にゆうべの翔さんの顔が浮かぶ。
わわわわわ!

『ニノ、俺…お前の事…』

わわわわ!待って待って!消えて!!




「…二宮さん?」

顔の前で両手をぶんぶん振ってる俺を、呼びに来たADさんが不審な目で見ていた。


「いや、虫?なんか、飛んでた。かな?
さ、じゃ、行きますか!」


慌てて「普段の俺」を引っ張り出して、セットに向かった。