マグボトルの中のお手製スープは、あったかくて、優しい味がした。

まるで潤くんの心みたいだね。
クールなケースの中に、あったかくて優しい中身が入ってる。
あ、俺、うまい事言った。


潤くんは、ホントにいい男だ。
顔かたちのことだけじゃない。


昔、酔っ払った俺が吐きそうになって慌ててトイレに駆け込んだ時も、個室の中に入ってきて、ずっと背中をさすってくれた。
俺が苦しんでたら、口に指を突っ込んで吐かせてくれて…
普通、こんなことできる??

コンサート中に俺のマイクが潰れた時も、真っ先に駆け寄ってくれて。

ほんっとにいいヤツなんだよね。

それでいて、意外と天然なところもあったりして。
不器用で、でもそれを上回る努力家で。
かっこよくて、可愛くて。

そんな所に相葉さんも惹かれたのかな…。




そんな事を考えながら、ズルズルとスープをすする。
やだ、やだ。
こんないい人にヤキモチ妬いちゃう俺。
ないわー。
はぁ。


スープ飲み終えて、ため息。
すると、スマホがブルブル。

デジャブかな?
着信の表示は、翔さん。



「…はい?」


『ごめん、ニノ、今大丈夫?』


「さっき取材終わったとこですけど。なんか用すか」


『いや…うん、昨日さ…相葉くんと帰ったじゃん。…大丈夫だったかな、と思って』




ここにも優しい人がいた。




「え?なんで?何が大丈夫って?」


『だって…ニノ、この前』



…あれ?


『相葉くんのこと…悩んでんだろ?俺で良ければまた相談乗るし』


「翔さん?」


『いや、出過ぎた真似だったらホント、ゴメンなんだけどさ!大事なメンバーの悩みだし、話くらい聞けるかなって』


「翔さん。こないだ飲んだ時のこと?」


『ごめん、蒸し返したりして…』


「じゃなくてさ。あの日、飲みすぎて記憶がないとか言ってなかった?」


『…………。』


「…………。」


『あ、れ?そ…うだっけ?』


「ですね。」


『………。』


「翔さん。とりあえず、これから会えます?」


『はい、会えます…』


ちょっと、ちゃんと話聞かせてもらおーじゃないの。





で。
例の、オシャレ居酒屋の個室に翔さんとふたり。



「だからさー、別に、嘘つこうとしたわけじゃないんだって。」


「じゃあどういうわけなんすか」


「いやー、なんていうか…恥ずかしかった、というか…」


「別に俺、誰にも言わないし。ひとのデリケートなこと、ペラペラ喋るような男じゃないんで。」


「いやー、ホント、ごめん!」



翔さんはテーブルにおでこをくっつけるほどに頭を下げた。



「やめてよ…。
ま、お互い、報われない想いを抱えるもの同士、慰めあっていきましょうよ。」


「……ああ、そうだな…。」


翔さんのその時の切ない…目。
俺に真っ直ぐに向いたその目に引きずられるように俺も、切なさが胸を襲った。



思えば翔さんと潤くんは、ジュニアの頃から仲が良かった。
いや、仲がいいというか、潤くんが翔さんに懐いていると言うか…。



いまよりずっとずっとちっちゃくて色白の可愛い少年だった潤くんは、ちょっとヤンチャな、だけど頭のいい翔さんに憧れていたように思う。


同じグループになってからもしばらくは、しょーくんしょーくんってついて歩いてたもんな。


高校受験、しないって言ってたのを止めたのも翔さん。
潤くんの、「俺の愛しの翔くん」発言には、ファンも俺達も驚愕したよな…。



それが、潤くんに遅めの反抗期が訪れて。少しづつ、距離を置き始めて…。



もしかしたら、それが翔さんにとっては寂しかったのかな。
ずっと慕ってくれていた可愛い弟分だったのが、離れ始めてついに、もっと大事な存在だって気づいたのかも…。


なんて。憶測だけど。




だとしたら…。
辛いよな、翔さんも。同じメンバー同士だもん。嫌でも目に入ってくるし…。



「どした?ニノ。大丈夫か?また飲みすぎた?」


気がつけば、翔さんが眉毛を下げて苦笑いしている。



「あ、ごめん…。自分の世界入ってた。」


「ハハッ、何だそれ。
なあ、ニノ、もし良かったら…このあと、うちで飲まない?」


「翔さんちで?」


「ああ。個室って言ってもさ、やっぱり…ここじゃ、さ、あんまり深い話する訳にはいかないだろ?
だからさ…
あ、いや、嫌ならいいんだけどさ。話したらすっきりするかもしれないし。
なんか最近、元気ない感じだし。」




はぁ…翔さんにもバレバレな感じで俺、ダメージ受けちゃってんのかよ…。



「わかりました。うん、行こっかな」



そうして俺は、あの日以来の翔さんちに行くことになった。
この先、何が起こるのかも知らないで。