旅が必要

冬の始まりのせいですか、旅のことを思うとどうしても切ない気持ちが先走っている。空港の出発ゲートも、チェックインしたばかりの部屋にぼんやりと集まった光も、最終日の朝ごはんも切ない。お盆の田舎も、夜の自販機で買うお茶も、おばあちゃんがいちいち泣くのも切ない。ブルックリンの、まだ流行っていないエリアの店と店の間までが15分くらいあって、それを一人で歩いていたりするのも切ない。悲しくなる。それは旅というものが、安心より不安で、習慣より異例で、要は「もう二度と繰り返されないかもしれない」という約束があるからなんだと思う。
だからみんな写真を撮る。景色や、食べものや、銅像の前で謎のポーズをキメたその瞬間をとどめようとする。私はその、残したい、という意思が素敵だと思うし、だからこそ会社帰りの雨に濡れた街灯を見るだけで、15年前に広島で見た路面電車のオレンジの灯りを思い出したりできるのだろう。みんな思い出に支えられて生きている。きれいなものをより多く見た人が勝つ。

文、平野紗季子



2016元旦
島根 美保関灯台



2016年1月
京都 伊根の舟屋


2016年2月
京都 北野天満宮


2016年4月
大阪造幣局



2016年6月
奈良 室生寺


2016年8月
奈良 谷瀬の吊り橋



2015年11月
京都 南禅寺天授庵



2015年クリスマス
東京ディズニーランド

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