家内に無言で抱きしめられたあの夜から、数日が経ちました。
あれほど情けない姿をさらしたのは、創業時、資金が底をついて二人で途方に暮れた時以来だったかもしれません。
「会長、これ以上は現場を混乱させないでください」
息子のあの冷徹な言葉が、今も耳の奥でリフレインしています。
私は会社を、そして息子を守っているつもりでした。
しかし実際には、自分の「居場所」を失う恐怖から、若きリーダーの足を引っ張る「老害」になっていたのです。
そんな、消えてしまいたいような気分のまま、深夜に一人で見つけたレポートがありました。
『資産ではなく、“誇り”を継がせる。』というタイトルのものです。
そこには、私のような創業者が決して口に出せない、でも心の奥底で震えている「本音」が綴られていました。
一番胸に刺さったのは、「去り際の美しさこそが、創業者の最後の教育である」という一節です。
私は引退することを「敗北」や「隠居」だと思っていました。
自分が何者でもなくなるのが怖くて、必死に会社という鎧にしがみついていたのです。
しかしレポートによれば、私が会社以外の場所で幸せに第二の人生を歩むことこそが、後継者への最大のギフトになるのだといいます。
「会社を潰したら終わりだ」という無言のプレッシャーを息子に与え続けていたのは、他ならぬ、会社から離れられない私の背中だったのです。
このレポートが説く『心の継承学』という視点は、私がこれまで専門家から受けてきたアドバイスとは全く違いました。
株の渡し方や節税の話ではなく、一人の人間として、どうやって自分の人生を次へ託すか。
私がしがみついていたのは「椅子」ではなく、経営者というアイデンティティ以外を持っていないという「孤独」だったのだと気づかされました。
正直なところ、今すぐ未練をすべて捨て去ることは難しいかもしれません。
でも、このレポートを読んだあと、隣で眠る家内の寝顔を見て、「次は彼女をどこへ旅行に連れて行こうか」と、久々に会社以外のことを考えている自分がいました。
もし、あなたが私と同じように、自分のいない未来を信じられず、会社にしがみついて自分をすり減らしているのなら。
このレポートをさらっと読んでみてください。
そこには、専門家が教える「手続き」ではなく、私たち創業者が「一人の人間」に戻るための、優しい出口が示されていました。
美しい退場は、私から息子へ贈れる最後の、そして最大の教育なのだと。今は、その言葉をゆっくりと噛み締めています。
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