思考の整理日記 - アメブロ時代 -19ページ目

「時は金なり」ではない

ドイツの作家ミヒャエル・エンデ(1929-1995年)の名作の1つに「モモ」があります。話を聞くことで人々を幸せな気持ちにすることができる不思議な少女モモと、モモたちに忍び寄る時間どろぼうの男たちが描かれた物語です。

実はこの本は確か小学生の時に一度読んだことがあるのですが、ふともう一度読みたくなりました。本には対象は小学5・6年以上と書かれていますが、どうしてどうして、なかなか考えさせられる深い本です。あらためて読むと、この物語の主題は「時間とは何か」を問うものだと気づかされるからです。

■「モモ」の物語

おもしろかったことの1つに、物語に登場する時間どろぼうたちの存在があります。彼らは「時間貯蓄銀行」の行員であり、人々に自分たちの時間を節約するよう推奨します。その営業の仕方は例えば以下の通りです。
 1. 人々にこれまでどれだけ自分が時間を無駄にしてきたかを数字で示す
 2. その無駄な時間を節約し貯蓄銀行に預けることを提案
 3. 貯蓄のメリットとして預けた時間に利子がつく(例.5年定期で2倍!)

やがて町中の大人たちが自分たちの時間を倹約するようになります。余暇の時間でさえ少しの無駄な時間も使わなくなる、あるいは時間内にできるだけたくさんの娯楽をつめこむためやたらせわしく遊ぶ。お祭りや厳粛な祭典でさえ時間倹約の対象となったり、仕事ではできるだけ短時間にできるだけたくさんの仕事をするようになります。

では時間を倹約した結果、どのようなことが起こったのか。皮肉なことに、自分たちが時間を節約すればするほど、自分たちの生活は殺伐としたものになっていきます。節約した時間は手元に残らず、追いたてられるようにせかせかと生きているからです。「よい暮らし」のためと信じて必死で時間を倹約し、見せかけの能率の良さや繁栄とは裏腹に、人々の心の中は貧しくなり都会の光景は砂漠と化していくのです。

そしてこの状況を理解したモモは町の人たちの時間を時間貯蓄銀行から取り戻すために立ち向かう、「モモ」の物語はこんな感じのストーリーです。

■時間節約は目的ではない

「モモ」で登場する(時間貯蓄銀行出現後の)町の様子は、典型的な現代の大都会を表しているのではないでしょうか。人々は「忙しい」「時間がない」など思い、そのための時短をアピールする商品やノウハウに関する書籍もよく見かけます。

もちろん、効率化を進め時間を節約する、無駄な時間をかけないことは大切なことだと思います。この点は「時間貯蓄銀行」の考え方に同意するものです。ですが、もっと重要なのは「何のために時間を節約するか」を明確にすることだと思います。

例えば、これまで1時間かかったことを30分で終わらすとします。これで残りの30分という時間を節約できたことになります。この節約した時間を何に使うか、どう使うかの目的がまずあり、時間節約はそのための手段でしかないと思います。時間節約を決して目的にしてはいけなく、「モモ」で登場する町の人々は目的にしてしまったためにますます追い立てられるという本末転倒な状況に陥ってしまったのではないでしょうか。

■時間はストックできないフローなもの

「時は金なり」という格言がありますが、お金と時間の違いの1つに、お金はフローでもありストックでもある一方で、時間は完全なフローという性質が考えられます。お金がフローというのはお金は支払えばなくなっていく(流れる)ことを指していて、一方でお金を例えば銀行に預ければストック(貯める)こともできます。

貯蓄は何のために残しておくかが大事ですが、仮に貯金する時点で明確な貯蓄目標がなかったとしても、必要な時にお金を引き出すことが可能です。ところが、時間はフローなので、当たり前ですが節約した時間を貯めておいて、後からその分をまとめて使うことはできません。例えば、手元にある100万円は今は不要だから貯金し必要な時に使えますが、1時間暇だから時間を貯蓄し楽しい時間になったらその1時間を使う、なんてことはできないのです。だからこそ、時間節約にはあらかじめ目的を持っておくことが重要になると思っています。

■時間とは

そもそも時間とは何なのでしょうか。科学的には「1秒はセシウム133原子(133Cs)の基底状態にある二つの超微細準位間の遷移に対応する放射の 9,192,631,770(約100億)周期にかかる時間」(Wikipedia参照)と定義されていますが、ここで言う時間はもっと主観的なものとしてです。例えば、その時間にどんなことがあったかにより、同じ一時間でもほんの一瞬と思えることもあれば、永遠の長さに感じられることもあります。

1日は24時間あり秒に換算すれば86,400秒で、これは私たち全員が平等に持っているものです。生きている限り享受でき、自分の時間が止まるということは、それは死を迎えるということで、その意味では時間とは自分の人生と言っていいのかもしれません。ちなみに、「モモ」の物語では、時間とは生きるということそのものだという記述も見られます。

お金と同様に、時間はどう使うかが大事になると思います。ただしお金は使ったとしても稼ぐことで取り戻すことはできますが、時間は不可逆的なものであり使ってしまえば決して取り戻すことはできないのです。であれば使う時間をどう豊かにするか、これが大事なのではないでしょうか。

最後に、「モモ」の中で登場するある人物の言葉をそのまま引用しておきます。

「人間はひとりひとりがそれぞれじぶんの時間をもっている。そしてこの時間は、ほんとうにじぶんのものであるあいだだけ、生きた時間でいられるのだよ。」


モモ (岩波少年文庫(127))
ミヒャエル・エンデ
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書籍 「ソーシャルメディア維新」

「ソーシャルメディア維新」(オガワカズヒロ マイコミ新書)という本を読みました。今回のエントリーでは、同書で取り上げられているグーグルとフェイスブックを中心に見ていきます。

■「ソーシャルメディア維新」の主題

この本の内容を一言で表現すれば、ウェブトラフィックがグーグルの「検索エンジン」からフェイスブックなどの「ソーシャルメディア」へのシフトです。具体的には、各種ウェブサイトへ行く時に従来はグーグルで検索をしていたのが、フェイスブックやツイッターなどのソーシャルメディア経由となっている状況を指しています。ちなみに副題でも、フェイスブックが塗り替えるインターネット勢力図、とあります。

少し古いデータですが、アメリカの調査会社Hitwiseの発表(2010年3月15日)によれば、アメリカでのアクセス数でフェイスブックがグーグルを抜いたようです(図1)。フェイスブックは前年同週比で185%増、一方のグーグルは9同%増としています。
思考の整理日記-101127 Facebook vs Google

■検索エンジンからソーシャルメディアへのパラダイムシフト

グーグルの検索エンジンからフェイスブックなどのソーシャルメディアへのシフトを見るため、まずはグーグルについて考えてみます。

グーグルは次のようなミッションを掲げている企業です。Google's mission is to organize the world's information and make it universally accessible and useful.(Googleの使命は、世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすることである) グーグルがこれまでやってきたことは、まさにこのミッションに従ってのものであり、社会にあるありとあらゆる情報をウェブ上に整理し、検索可能な状況をつくる努力をしてきたのだと思います。

グーグルのすごさは、ネットでの検索エンジンで世界一になり、かつそこから検索連動型などの広告モデルを自分たちの収益に結びつけたことです。グーグルは多くの人がネットを使えば検索も利用されると考えており、だから彼らは検索可能な領域を増やし続けてきたのではないでしょうか。

このようなグーグルとユーザーのWinWinの状況を脅かしつつあるのが、フェイスブックなどのソーシャルメディアの存在です。ツイッターを使っていて実感することに、何かのサイトやコンテンツを知るきっかけがフォローしている人のつぶやく情報だということがよくあります。例えば話題になっているニュースを知るきっかけはツイッターという状況が普通に起こるようになりました。

「ソーシャルメディア維新」ではツイッター上を流れるつぶやきなどの総称をソーシャルストリームと表現し、グーグルのこれまでの情報整理の仕方ではソーシャルストリームのスピードに追いつけていない状況が発生していると言います。というのも、グーグルの考え方はウェブの最小単位をウェブページとし、それらのリンク構造を把握することで正確な検索技術を実現してきましたが、ソーシャルメディアの台頭で、ウェブページよりもその上に流れている情報やコンテンツが重要になってきたからで(図2)、その流れのスピードがグーグルにとって速すぎるのです。「ソーシャルメディア維新」では、このような状況の結果として、グーグルの検索エンジンからソーシャルメディアへのパラダイムシフトを起こしていると指摘しています。
思考の整理日記-101127 ウェブvsソーシャルストリーム.jpg

■Facebookが目指すもの

フェイスブックのグーグルに対する優位性に、フェイスブックの5億人を超えるユーザーの人間関係情報(ソーシャルグラフ)があります。さらには、各ユーザーが持つ様々な情報への興味・関心もそうで、例えばLikeボタンにより、これらの興味関心までもユーザー同士でつながります。「ソーシャルメディア維新」という本では、フェイスブックが行おうとしているのは人間関係というネットワークをウェブに移すこと、すなわち人間関係のクラウド化であり、かつウェブ上にある様々なコンテンツとフェイスブック内の人間関係を結びつける「オープングラフ」だと指摘しています。

上記のようにグーグルの捉え方はウェブページとウェブページのリンクでしたが、フェイスブックはユーザーの人間関係や興味・関心のリンクを目指します。グーグルはウェブ上の情報を整理してくれますが、フェイスブックはウェブ上の情報を各ユーザーの自分好みにパーソナライズ化してくれる存在なのです。

■Facebookの課題

一方で、「ソーシャルメディア維新」ではフェイスブックが抱える課題についても言及しています。その最も大きな課題がプライバシー問題と言います。先ほどフェイスブックの優位性にユーザー同士の人間関係や興味・関心と書きましたが、実は優位性となる前提としてこれらの情報がオープンに公開されている必要があります。しかし、ユーザーにとっては当然ながら公開したくない情報もあり、それがユーザーとフェイスブックの間に齟齬が起こりプライバシー問題につながってしまうのです。

グーグルが自社の検索技術から検索連動型広告という収益モデルを築いたように、フェイスブックは自分たちが保有する優位性を収益に結び付けるためにこの課題をどう解決するか、世界中にいる5億人のユーザー数とそこから発生するウェブのトラフィックからの換金方法を見出した時、ソーシャルメディアによる維新が起こるのかもしれません。


※参考情報

Facebook Reaches Top Ranking in US (March 15, 2010) | Hitwise
http://weblogs.hitwise.com/heather-dougherty/2010/03/facebook_reaches_top_ranking_i.html

Google's Mission
http://www.google.com/corporate/facts.html


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欧州最大のLCCライアンエアーに見る戦略ストーリー

今週の日経ビジネス2010.11.22の特集記事はアップルを取り上げています(「アップルの真実 ジョブズの天下はいつまで続くのか?」)。ですが個人的に興味深かったのは、このアップルの次に掲載されていた欧州最大の航空会社であるライアンエアーについての記事でした。タイトルは「『究極の目標は運賃ゼロ』 異端経営で圧倒的安さを実現」。今回のエントリーではライアンエアーの戦略ストーリーについて考えてみます。

■戦略ストーリーの5C

本題に入る前にストーリを見ていく上でのフレームについてです。下記は「ストーリーとしての競争戦略」(楠木建 東洋経済)という本からの引用で、著者が戦略ストーリーの5Cと呼んでいるものです(表1)。以下、5Cのうちの4つ(競争優位、コンセプト、構成要素、クリティカル・コア)で整理しています。
思考の整理日記-101123 戦略ストーリーの5C

■ライアンエアー

まずはライアンエアーについて簡単に。アイルランドに本社を構える同社は、日経ビジネスの記事によると、航空会社の搭乗者数ランキングでは5位でヨーロッパではトップです(1位サウスウェスト航空、2位アメリカン航空、3位デルタ航空、4位中国南方航空 ※出所:IATA World Air Transport Statistics 54th Edition 2010)。日経ビジネスが各社の通期決算を基準に算出した平均運賃を見ると、ライアンエアーは30ユーロ程度(約3500円)で全日空の170ユーロ前後(約19000円)と比べると低運賃なのがわかります。

記事には、1997年に株式公開を果たし急成長を遂げていると書かれています。実際に売上高は対前年プラスを維持し続けており、最終損益はリーマンショック後の2009年には赤字を計上しているものの、2010年にはV字回復しているようです。

■競争優位とコンセプト

ここで言う競争優位とは、どういった戦略で利益を創出するかで、ライアンエアーの競争優位は徹底的な低コストの実現です。次に顧客にどういった価値を提供するかというコンセプトは低賃金です。これに関してCEOのマイケル・オリーリー氏は次のように言っています。「競合他社を排除するために、運賃とコストを下げ続ける。長期的な目標は運賃ゼロ」。というのも、記事内に出てくるある証券アナリストのコメントからオリーリー氏はこう考えているようだからです。航空ビジネスはもはや価格でしか訴求できないコモディティビジネスであり、故に最安で勝負する。

■差別化を実現する構成要素

まとめると、低コストという優位性を実現することで、最安値を追及し提供するのがライアンエアーのコンセプトです。ではそのためにはどういった取組みをしているのでしょうか。日経ビジネスの記事では複数の事例が紹介されています。

例えば搭乗手続きのチェックインは事前にウェブサイトで行なうことを顧客に義務付け、搭乗券も顧客が自宅などで印刷が必要です。手荷物の預かりを有料としたり、座席指定がなく、機内誌や機内食メニューも必要な客にだけしか配布しません。そして、席にリクライニング機能はなく席の前にあるポケットもない。また、記事では現在検討中のものとして、席自体がない立ち乗りや機内トイレの有料化、副操縦士までもが機内食販売を担当することまで挙げられています。

■顧客を巻き込み低コスト実現

記事にはCEOのオリーリー氏は、上記のオンラインチェックインや手荷物チェックインの有料化などの課金は「乗客の行動を変えるため」と主張しています。事実、手荷物を預ける乗客は過去3年で80%から25%にまで減少したとのこと。

このように、様々な施策をうちだしているライアンエアーですが、個人的に思うのは顧客を巻き込んでの低コストの実現だということです。顧客が事前にオンラインで搭乗手続きを行い搭乗券の発行を済ませてくれば、当日のコストを省けます。そもそも手続きカウンターすら不要になります。座席指定をなくすことで、乗客は座りたい席を確保するため自ら早く搭乗するようになります。また、手荷物預かりが減ったことで、荷物の機内の乗り入れも乗客が自分でします。こういった乗客の行動を促す、つまり顧客を巻き込みながら、平均30ユーロ、時には欧州各都市を片道5ユーロ(約565円)という圧倒的な低価格を実現しているように思います。

ただ、補足事項として、運賃を下げる一方で課金しているところでは課金をしている点があります。具体的にはウェブチェックインは有料で5ポンド(約655円)、搭乗券の印刷を忘れたら再発行に40ポンド(約5240円)、提示する運賃は税抜で別途支払いなど。

■部分非合理&全体最適なクリティカル・コア

書籍「ストーリーとしての競争戦略」ではクリティカル・コアという考え方を提唱しています(図1)。
思考の整理日記-101123 クリティカル・コア
これはある側面だけを見ると合理的には見えないが、戦略ストーリー全体で見れば合理的だというものです。例としてアマゾンの巨大な在庫・物流センターがあります。オンラインでの販売に特化しているアマゾンが在庫を抱えることはコストもかかりウェブの身軽さを享受できないように一見すると非合理ですが、それだけ豊富な在庫を保有することで商品の充実が図れます。よって全体で見ると合理的なのです。部分的には非合理であるため、競合他社はむしろ模倣を図ることなく、故にアマゾンの競争優位をもたらします。

話をライアンエアーに戻します。個人的に考える同社のクリティカル・コアは「コスト削減にタブーなし」だと考えます。まだ検討中のようですが、立ち乗りや副操縦士による機内食販売は安全性という航空会社の根幹に関わるものです(オリーリー氏は立ち乗りに関して手すりにベルトを用意するなど安全面では妥協はしないと言っていますが)。おそらく一般的な航空会社であれば、具体的な検討すら行われないのではないでしょうか。あるいは、前述のような顧客に手間をかけさせたり機内サービスの省略も、今でこそLCC(格安航空)では普及しているかもしれませんが、従来では考えにくい発想のように思います。

コスト削減においてタブー視しない姿勢について、CEOのオリーリー氏の言葉が印象的でした。以下、日経ビジネスの記事からそのまま引用しています。「誰もが『不可能だ』『安全じゃない』と言うが、大切なのは、すべての可能性を議論できるように問題提起することだ。」

■まとめ

最後に今回の内容をまとめておきます(表2)。こうして見ると、ライアンエアーのストーリーには一貫性があることがわかります。
思考の整理日記-101123 ライアンエアーの戦略ストーリー