左腕を三角巾で吊るし、額に絆創膏を貼り付けた女刑事は呟く。
相棒の坊主男は耳を傾ける。
まるで月が泣いている、と。
確かに、そんな空だった。
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月が赤かった。
この世も終わりか、と男は目を瞑る。
次に太陽がこの街を照らす頃は、
俺の世界は闇に包まれる。
ーー……永遠に。
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廃墟の窓から見える月は輝いていた。
空気をたっぷり吸う。
肺に入るのを感じて、生きてる。と実感する。
周りに広がる赤。
また、私だけ、生きてる。
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水面に月が反射して浮かんだ。
綺麗だな。と手で水をかき混ぜる。
まるで、月が同化してるみたい。
私が月の中に入ったみたい。
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刀に月が映る。彼女の目に反射して、彼女は思わず目を細める。
もう疲れてしまった。
誰かを護ることに。
彼女は振り返る。
大きな高層ビルに、月は隠れてしまっていた。
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調べることに飽きて、見上げた空には黄色い月が浮かんでいた。
月はいつでも綺麗だな、と彼は資料を机に置き、頬杖をつく。
どうしたら、彼女と世界を救えるだろう。
月が欠ける、その前に。
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左腕を三角巾で吊るし、額に絆創膏をつけた女刑事は月から目を離さない。
どうしたんだ、と相棒の坊主男が訊く。
彼女はただただ首を振り、違う、と否定する。
坊主男は彼女と同じ位置で月を見る。何も変わらない世界に、月。
違う、そう彼女は呟く。
貴方が消えるのは、まだ早すぎる。
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刀を持った彼女は、屋上に立つ。
良い世界、とは言えなかったけれど。
私は全てを護り、そして放棄するために。
さようなら。
私が居なくなった事の顛末は、
その美しい月が、教えてくれるわ。
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彼はコーヒーカップを落とす。
白い高級な絨毯に、茶色い染みが出来ていく。
まるで綺麗な月の形に。
その結末は考えていなかった。
そんなの、反則だ。
君が消えて、この世界だけが救われるなんて。
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三角巾に絆創膏の女刑事は、月を見上げたまま、目尻から自然と涙を零す。
どうしたんだ、何かあったのか、と訊く相棒の坊主男を無視して、ただただ泣き続ける。
彼女の脳内をループしていた悲鳴が消える。
だから、まだ早いと言ったのに。
彼女の月は、涙によって歪んでいく。
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少女は草原の中で、一冊の本を閉じる。
見上げた空は、綺麗な月がかかっていた。
あの時と同じだ、と少し微笑み、廃れた刀を抱き締める。
少女の周りを鮮やかな蝶が舞う。
素敵な世界、とは言えないけど。
良い世界にはなったよ、ね。
私は今日も生きてる。
いつまでも生き続ける。
貴方達に出逢えて、良かった。
緩やかな世界で、少女は幾重にも魂を重ねる。
また、私の世界が消えそうになったら。
また、彼女達に出逢わせて下さい。
そして、結末は同じで良い。
神様、どうか。
月を仰ぐ。
じゃあ、次の世界までサヨウナラ。
嘘みたいな、ホントの世界。