香雨の後、廊下を突きあたった奥まったスペースに美晴を見つけた。

 

母校の中学校はとても歴史のある中学校で、築年数もかなりある。

 

とても古い造りになっている。

 

今でこそ改修されているが、私たちが通っていた頃は一部廊下はレンガで出来ていた。

 

そんな廊下の端に美晴の姿を見つけたので、近づいて声を掛けようと思った。

 

梅雨空で空は灰色で、しとしとと降り続く雨はどこからか寂しさを連れてくる。

 

美晴に声を掛けようとしたとき、突き当りの奥に男子が一人いるのが目に入った。

 

おっと・・・一人じゃなかったのか。

 

くるりと方向を変えてその場を去ろうとしたが、

 

男子の話す声が耳に入ってきた。

 

「ずっと気になってたから付き合って」

 

え・・・

 

気になり過ぎてその場を去れなくなりそうだったが、

 

盗み聞きするなど下衆なことをしてはいけないと思い、後ろ髪を引かれながらもその場を後にした。

 

昼食時間に美晴に聞いた。

 

「さっき廊下で美晴と山下君を見たよ」

 

「うん。」

 

「どうするの?」

 

「好きじゃない人とは付き合えないから仕方がないよね・・・」

 

美晴は山下君を好きじゃないと言い切った。

 

学年でもわりとモテる男子だったのにも関わらずだ。

 

「そっか、優しそうな人だけど美晴が好きじゃないならしょうがないよね」

 

と言うと

 

「うん」

 

とてもあっさりした親友だ。

 

今でもこの気質は変わらない。

 

そしてその次の月も、その翌月にならないうちにもまた、美晴は同じ学年の男子に、はたまた一学年上の先輩に告白をされていた。

 

美晴はよくモテる。

 

でもその理由が私にはよーくわかる。

 

その笑顔と万人を受け入れますと書いてあるような雰囲気、

 

とはいえ、人から嫌われることを恐れていなくて、堂々と振る舞うその一挙手一投足に目を奪われるのは私だけじゃないだろう。

 

友人として誇らしかった。

 

中学2年生のちょうどこの季節、美晴のクラスでいざこざが起きた。

 

美樹ちゃんという女の子と、一人の男子が喧嘩をしたのだと言う。

 

男子に暴言を吐かれた美樹ちゃんは泣き喚いて廊下に飛び出し、

 

手すりも何もない廊下にむき出しになっている手洗い場に這い上がって行った。

 

古い造りの学校なので、手洗い場に上がればそこはもう外なのだ。(伝わりづらい・・・かな)

 

とにかく屋外なのだ。

 

「もう死ぬ!近寄るな!」

 

この声が中学2年の女子の声なのかと思うような叫び声をあげながら美樹ちゃんは手洗い場に上り、そこから飛び降りようとした。

 

教室から飛び出してきた美晴が美樹ちゃんの足首を掴んで離さない。

 

あっという間に周囲にはやじ馬が集まった。

 

私は美晴が一緒に落ちてはいけないと思い、美樹ちゃんの制服のスカートの裾を握った。

 

「誰か来て!先生呼んで来てお願い!」

 

美樹ちゃんを掴む手が一人二人と増え、美樹ちゃんは観念した。

 

男性教師が来て美樹ちゃんはどこかへ連れて行かれた。

 

4階だ。飛び降りていたら命はなかっただろう。

 

しかし、その翌日から美樹ちゃんが学校に来ることはもうなかった。

 

美晴が真っ先に行かなかったら、美樹ちゃんは死んでいただろう。

 

その時に見た美晴の姿が私は今も忘れられない。

 

雨の湿った音と静寂を破るような美樹ちゃんの叫び声の中、

 

美晴の長いサラサラの髪の毛が吹く風に巻き上げられてまるで雪女みたいになっていた。

 

尊敬する親友の勇姿が脳裏に焼き付いている。

 

雨音が歌声のように降り続くと、私は今でもふと美晴のあの横顔を思い出す。