寒い国では、人々は朝からしっかりとお腹の中に熱をたくわえて仕事に出かける。
早春の季節に東欧諸国を旅したときには、特にその印象が強かった。
そもそも、東欧諸国はおしなべて朝が早い。
店は夜早くしまい、人々は六時前に起きて、七時には会社に着いている。
だから朝食は慌ただしいが、でもしっかりと食べておかないと後がツライので、みんなよく食べる。
朝早くから開いている食堂にコーヒーを飲みに行ったら、出勤途中のおじさんがおばさん(OLなんていう軟弱な語感にはにつかわしくない屈強なお母さんたちが社会主義国では実によく働いている)が朝からトンカツやにんにくをガツガツ食べている。
厚いコートと毛皮の帽子に身を固めたまま朝食をかっこみ、そこでたくわえた熱エネルギーでもって昼過ぎまでの労働力をまかなうのだ。
しかし、ね、
普段からまともな労働をしていない食客にとっては、朝からの重い食事は厳しい。
特に油っこいものは・・・。
あれはハンガリーの首都ブダペストの民宿の朝食だった。
メニューはパンにミルクに、スクランブルドエッグに、ベーコン。
と、こう書き並べてみるとごく当たり前の朝食なのだが、実はその時に出てきたベーコンが凄かった。
長さ2センチ、幅6センチで厚さが優に2センチはある。
しかも、それは赤みが全く入ってない、純然たる“脂肪の塊”だったのだ。
そのペロリとした一枚の脂肪の塊が、フライパンで炒めてある。
「さぁお召し上がり。からだが温まりますよ」
民宿のおばさんはそう言ってすすめてくれたけども・・・
私は3口食べただけで降参してしまった。
するとおばさんは
「あら、もったいない」
と言って残りの三分の二を自分の皿に取り、ぺろりと平らげた。
ベーコン?
たしかにベーコンなのだが要するにそれは豚の背油のスライスなのだった。
フランス語では現在、ベーコンのことを(英語から逆輸入して、“ベーコン”とも呼ぶが)
「痩せたラード」
と言い、背脂のことを、
「太ったラード」
と言う。
つまり、どちらもラード(フランス語発音はラール)すなわち豚の脂には違いない。
今思い出しても、
うっ・・・となる。
日本に帰り、日本のスーパーで見るベーコンのペラペラさに妙な安堵感を覚えた。
今も私は脂身の多いベーコンが食べられずにいる。