夜の銭湯からの帰り、道の先の坂の暗がりの板塀に誰かが凭れて立っているのが見えた。それが一瞬私の到着を待っている父の影のように思え、「父さん」と呼び掛けようとして、すぐにそんなはずはない、と打ち消した。痴呆の進んだ父がわざわざ夜遅くに遠方から出掛けてきて私を待っているわけがない。もう一度しかと暗がりを見つめると何もいなかった。最近時折思うのだが、私はいったい父の何を受け継いでいるのだろうか。実際に会ったことはなくて偶々ある雑誌に掲載された写真で見ただけだが、学者をしている兄のほうが私よりも父の面差しの多くや学問好きな血を濃く継いでいるような気がする。では、私はいったいこの血脈の何なのだろう。


☆☆☆


そこを深層心理というのかどうか知らない。ただ、心の奥底と感じる場所で望み描いたことが最近実現しやすくなったような気がする。なぜかはわからぬが。