更けゆく夜に、ラジオから流れるクラシック音楽番組オッターバコンブリオ。バッハのオルガン協奏曲に変わったところだ。バッハを聴きながら、柳美里さんの四部作の第一作『命』(新潮文庫)を読む。単行本がベストセラーになっていたことは知っていたけれども、二三日前にジュンク堂の「出版社在庫僅少本コーナー」を覘いたら柳さんのこの四部作の文庫本が並べられていた。文庫本はあまり売れなかったらしい。柳さんのものはきちんと読んだことがなかったから、思わず求めてしまった。

 心の中の原風景と言えるかどうかわからないけれども、ものごころのついた小さな頃から、多分ヨーロッパのどこかの学校の建物の廊下のことを憶えている。季節は秋で、日差しが弱く窓から差し込んでいて、その廊下には大音楽家たちの胸像が並んでいる。どういうわけだかその風景がすごく懐かしい。