・ブラック企業の指標は、なんといっても大量採用、大量離職の実態にある。(今野)
・ブラック企業の多くは新興成長産業で、破竹の勢いで業績を伸ばしている企業である(今野)
・正社員として募集しているにも関わらず、面接に通って契約を交わす段になって突然非正規社員での契約書を渡される場合がある-------手口として一番多いのは、「試用期間を用いたごまかしだ」(今野)
・ブラック企業は、若い正社員を「生活保護予備軍」に加えている。
若年労働者が生活保護へと転落する構図は、ほとんどが「うつ病罹患→働けない→生活保護申請」というルートに整理できる。
そして、彼らが生活保護に「転落」したとしても、ブラック企業はまったくの素知らぬ顔である。その費用はすべて公費にまわり、社会的非難は生活保護受給者本人へと向けられる。(今野)
・医療費の負担増や、生活保護の受給を減らしたいのであれば、本当はブラック企業を規制するべきなのだ。(今野)
・ブラック企業はこの解雇規制をまぬがれるために、社員が「自ら辞めた」という形をとろうとする。
労働者に「一身上の都合で辞めます」と一筆書かせることで、訴訟リスクを軽減しようというのだ。
更に、こうした訴訟リスクを避ける手口が高度化している。それが「戦略的パワハラ」だ。(今野)
・「戦略的パワハラ」の弊害は経済的にも生じる。雇用保険を利用するとき、自己都合で辞めた人には3か月間の受給制限期間が設けられる。このペナルティを、本来受けるべきでない労働者が受ける。
・ブラック企業経営者は、入社した新人に、まず最初にガツンとやっておく。これによって"社員"気取りで入社した新人は、一気に"社畜"へと堕ちていく(秋山謙一郎)
・一般的なブラック企業の説明は、実は「ブラック企業問題」の本質的側面を見落としている。「使い捨て」がどうして発生し、どうして抑止できないのか。こうした社会構造こそが問題の本質なのであって、違法行為をしている「悪い企業」をいくら個別にあげつらっても問題の核心は見えてこない。
・そもそも、従来から日本の企業の命令の権利は諸外国から見て際立って強いものであった。その理由は、日本型雇用においては、終身雇用と年功賃金と引き換えに、柔軟に命令を引き受けるという体質が身についていたからである。
---------日本の雇用契約の場合には、長期契約と引き換えに仕事の内容や命令のあり方にほとんど制約がかけられず、たいていのことが「人事権」として認められているところに特徴がある。契約内容をあいまいにするほど、業務命令の内容は柔軟に、雇用の継続は確実にされていく関係にあるとされる。
・日本型雇用の特徴として「終身雇用」と「年功賃金」を思いつく方は多いことだろう。しかし、実はこれらと「対」の関係にある巨大な企業の命令権限こそが、それら以上に重大な、日本型雇用の特徴なのである(今野)
・ブラック企業の特徴は、正社員の方は命令の強さはそのままに、長期雇用や手厚い企業福祉は削減されてしまっているところにある。ブラック企業は過剰な命令をする一方で、決して新卒を「メンバー」として受け入れることはない(今野)
・これまでも日本企業の命令権は極めて強いものであり、それは時に耐えがたいものであったはずだ。だが、多くの労働者がそれでもこれを「ブラック」などとは感じずに甘受してきたのは、それだけの見返りがあったからに他ならない。
今日私たちが「ブラック」だと感じる理由は、ブラック企業は将来設計がたたない賃金で、私生活が崩壊するような長時間労働で、なおかつ若者を「使い捨て」るからである。
・ブラック企業問題は日本型雇用の変質なのであり、かつそれは社会全体の中で重要な意味を持っている。そのため、ブラック企業問題は、他の法的な労働問題とも異なっている。
・ブラック企業のパターンが顕著に見られるのは新興産業においてである。日本型雇用は製造業を中心に発展してきたが、新しい業態であるコンビニや近年参入した新興外食チェーンでは、そもそも日本型雇用の規範意識を有していない。
・さらに、この間深刻なのは、悪徳な社会保険労務士や弁護士が、ブラック企業と労働者の間に介在するようになってきたことだ(ブラック士業)
・取材を進めるうち、自覚するしないを問わず、ブラック企業経営者と呼ばれる者たちに共通していることがわかった。
皆、何事も自分に都合よく考える。物事を考える軸は、すべて自分である。さも、自分が世界の中心であるかのように考えている節がある(秋山謙一郎)
・業種・業態を問わず、世のブラック企業すべてに共通しているのが新人いじめだ。(秋山)
・企業規模を問わず、ブラック企業ではその多くは経営者が直接新人指導を行わない仕組みをとっている。経営者のカリスマ性を演出する効果を狙ってのことだ。-------------------特に女性ほど社畜として洗脳すると仕事を覚え、後輩ができた頃には経営者側に立ってみずからが泥を被るという(秋山)
・ブラック企業に入社する人は数多いが、残る人もまた多い。ただ、残る人には共通した特徴があるという。「そこそこ育ちがいい者。学校では優等生か、大人しく人の言うことを「はい、はい」といって聞き、上からの指示に疑いや疑問を持たない者。こういう人間は概して責任感が強い。その責任感の強さを逆手に取るんだよ。
・無意味なまでに膨大な作業を押しつけ、長時間拘束を強いるのは時間だけを奪っているのではない。思考能力もまた奪っているのだ(秋山)
・企業が求めている資格を取得できなければ降格され、場合によっては退職を余儀なくされる--------そんな資格ハラスメントがここ最近増えつつある。
・まず、日本型雇用からの脱却を図るべきである。そもそも日本型雇用とは、企業ごとに正社員(その多くは男性)だけにメンバーシップを与え、彼らだけに雇用保障と福祉を与えるという仕組みである。したがって最初から限定的・閉鎖的で、さらには差別的な雇用なのである。そして、ここに国家の福祉が大きく依存していたこと自体に、日本社会のゆがみがある(今野)
・これまでただ「自分を責める」ことしか知らなかった私たちの世代が、「ブラック企業」という言葉を発明し、この日本社会の現状を変えるべきものだとはじめて表現したことにこそ、この言葉の意義はある。
ブラック企業は「概念」なのではない。私たちの世代が問題意識を持ち、それを結びつけ、そして世の中を動かしていこうとする「言説」なのである。(今野)
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・就職難とブラック企業が併存するのはおかしい。ブラック企業は、豊富な労働力が市場にあることを背景として横暴を行っている。「代わりならいくらでもいる」という言葉に象徴されるように。それでいてなぜ就職難なのか。ワークシェアリングの方向に進まなければならない。
・現在の労働啓蒙教育では、「ブラック企業に入らないための注意点」は教えても、「ブラック企業に入ってしまった後の対処」については扱わない傾向がある。
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・日本型雇用の特徴として広く理解されているのは終身雇用と年功賃金であろう。だが、これらを成立させる背後の要因がより重要である。
第一に、長期雇用を成立させるためには、企業は市場が要請する需給変動の対応を、解雇以外の方法で行う必要に迫られる。その一つの手段が「景気の調整弁」としての非正規雇用差別であるが、もう一つが、正社員に対する強大な人事権(残業命令、配置転換)の保持であった。
第二に、年功賃金は年齢とともに上がる賃金という誤解があるが、それは成立の最初期に限られたものであり、むしろ「能力給」としての性格の方が重要である。年功賃金とは、企業に貢献する能力に対する賃金であり、それが上昇するからこそ、賃金が年齢とともに上昇するというわけである。
能力給においては、企業が考課、査定を通じ、「職能資格制度」にもとづいたランク付けを行う。考課・査定は、具体的な仕事に対する評価ではなく、潜在的な能力や企業への貢献度に基づく評価になる。労働者は具体的な仕事ではなく貢献度によって評価がなされるため、あらゆる生活を企業に捧げるようになり、全人格的に企業に従属するようになる。こうした事態を熊沢誠氏が「強制された自発性」と表現したことは、あまりにも有名である(森岡??)
・従来から、月の~万円などと残業手当を固定する方法は広く行われてきた。これに対し、近年急速な広がりを見せる手法は、残業代をあらかじめ基本給に含めることで、もはや「いくら働いた分にいくら支払われる」という基本的な関係を喪失させつつあるのだ。