・北九州市では、05~07年にかけて3年連続で餓死事件が発生している。この自治体は、生活保護費の削減を進めることで、「生活保護行政の優等生」と言われ、「モデル自治体」とも呼ばれた。厚労省が進めてきた「適正化」政策の中で、生活保護費の削減が強く迫られ、それにもっとも順応したのが北九州市だったのである。(今野)

 

・政府は捕捉率調査を拒否しているが、学者の調査では、日本の捕捉率はおおむね15~20%程度とされている。20%として約400万世帯600万人、15%とすれば約600万世帯850万人の生活困窮者が生活保護制度から漏れている計算になる。15~20%しかカバーできていないのでは、もはやネットの「穴」と言える状態ではない(湯浅)

この背景には様々な要因があるが、「どんなに生活が苦しくても、生活保護など受けたくない」という制度そのものに対するマイナスイメージが根強いことと並んで、自治体窓口で申請せずに追い返す「水際作戦」が全国で横行していることが大きな要因としてある。

 

・不正受給の総額は、保護費全体の0.5%にも満たない。

 

・生活保護バッシングに影響されているのは、一般市民や、受給者本人だけではない。中立かつ適切に、法律に基づいた制度運用を求められるはずの行政までもが、「煽り」の中で法律を無視した対応を繰り返しているのだ。(今野)

 

・日本の多くの人たちにとって、すべり台の途中にある歯止めは、公的なセーフティネットではなく、家族・親族である。家族の支えがあるかどうかが、決定的な分かれ道となってしまっている。それは、家族の支えあい機能の重要性と同時に、日本社会が家族に異常な負担を強いる社会であることを示している。(湯浅)。

 

・稲葉剛代表理事によれば、水際作戦の主要な手法には、

①住まいのない人に対する「住まい/住民票がないので受けられません」

②稼働能力層に対して「あなたは働けるから受けられません」「ハローワークに行ってください」

③「家族に養ってもらいなさい」

の三つがあるという。

 

・(人員不足)その背景にある最大の理由は、制度成立以来の財政問題である。生活保護費についての国と地方の負担割合は、国4分の3、地方4分の1となっている。だが、これは受給者の手に渡る保護費や生活保護に関する施設の運営費用に限られ、ケースワーカーの人件費や資産調査などに要する事務費を含む膨大な行政費用は100%地方が負担することになっている。(今野)

 

・ケースワーカーは公務員の中でも過酷な職場のひとつだが、大阪市保護課よると、現在、市内のケースワーカー約980人のうち、約210人は3年契約の任期付職員だ。フルタイムで月の手取りは13万円ほど。正規職員の半分から3分の1だが、「業務内容は原則、正規と同じ」(市人事課)だという。

これに対し、任期付ケースワーカーのエミさんが反論する。「同じどころじゃないですよ。正規の担当は7,80件ですけど、私は集合住宅が多い地域を任されることが多いので、受け持ちは100件近くにもなるんですから」(藤田和恵)

 

・生活保護の歴史

1946年 国民の生存権を守るという観点から生活保護法制定

 

1950年 新生活保護法制定

日本国内在住者で日本国籍を持つ者のみに適用

 

1954年 正当な理由があって日本国内に在住している外国籍の者にも準用することになった。ただし、生活保護決定に対する不服申し立ての権利は認めず。