電車、バスを使い、ソウル市街を歩いた。国内旅行であれば何気なくスルーするものでも、海外ではやはり刺激になる。
まず改札。日本と同じ形状の改札機もあったが、回転式のバーがついているのもあってびっくり。通りづらかった...
地下鉄を降りて市街地を歩いていると、小規模な書店があった。
文化的に結構ショックなのだが、この近辺で唯一の書店だという。
他にびっくりしたのは、バスの運転がかなり雑だったこと。いきなり急発車したり、走行中にドアが開くから乗り心地が最悪だし、怖い。職業人でこれだから、韓国ではごくごく普通のことなのだろうか。恐ろしかった(汗)。
前置きが長くなったが、向かった先は、延世大学校の構内にある尹東柱記念館。
延世大はSKYの一角で、慶応義塾大に相当する私立大学だ。因みに高麗大は早大で、ソウル大は勿論東大である。
延世大の敷地内はちょうど今大規模な工事中で、大学という雰囲気など最初は微塵も感じられなかったが、進んでいくと、慶応義塾にとっての福沢諭吉に相当するホレイス・グラント・アンダーウッドの像があった。その奥には延世大学校最古の建物が見え、連綿と続く歴史を感じた。
サークルなどのビラがビシバシ貼られていたように思う(地面にも貼られていた!)。活動的な雰囲気を感じた。
特筆すべきこととしては、キャンパスの掃除員が解雇され、そのことに抗議する弾幕が貼られているという。詳しい事実はわからないが、駐車場を新設中なのだから大学は財政的に逼迫しているわけでもないだろう。そういうことに対して声を上げることは重要だと思う。花壇に風車が沢山あったが、その風車に応援する書き込みもチラホラ見られた。
尹東柱(ユン・ドンジュ:1917-1945)のことは日本人は殆ど名も知らないかと思う。
アジア太平洋戦争末期、留学先の日本で27歳の若さにして獄死した詩人だ。その清冽な言葉が韓国の人々を魅了し、現代でもその名を知らぬ韓国人は殆どいないという(敬虔なクリスチャンとしても有名)。
↑尹東柱の詩碑
そんな国民的存在がかつて学んだ名門、延世大学校(当時は延禧専門学校)の構内に、尹東柱記念室はある。
渺茫たる大学構内とは対照的に、尹東柱記念室は小部屋ひとつの空間だ。展示物はほぼ全てハングル、率直に言って感想が難しい。彼の覚書や年表パネル、生家の瓦が見られたことくらいしか絞り出すことができない。
彼が遺したたった一冊の詩集「空と風と星と詩」(岩波文庫)を少し読んでみたが、それでももとより文学的素養のない私には、どう釈義すればよいのかわからない。
ただ東柱の詩作品は、戦時非常体制の時局意識からはかけ離れた「ノンポリ」の作品であるが、あの軍国主義時代、こぞって戦争賛美や皇威発揚になだれを打っていた時代、同調する気配の微塵もない詩を、それも差し止められている言葉で書いていたということには、彼の芯の強さを感じる。民族詩人としての追慕と尊敬を集める理由の一端だろう。
東柱の作品が初めて公にされたのは死後の1947年、京郷新聞でのことであるが、その後詩集は広く読まれ、中学・高校の国語教科書にも掲載された。
日本人として、日本軍国主義、治安維持法の一犠牲者に追悼の意を捧げる。