一般に、少年審判の結果が少年院送致であるより、試験観察となる方が

 軽い処分

と思われているようです。


本当は、試験観察は、保護観察と違って中間処分なので、軽い・重いで比較できないんですが

 試験観察で済んだ

なんて表現を耳にすることがあるので、そういう捉え方をされることがあるようです。


そういえば、試験観察を終局処分だと付添人弁護士さんに誤解されたこともありました…(これは前にもこのブログで書きました。)


たしかに、試験観察だと、自宅に帰ることもあるし、そうでなくても補導委託でお願いする施設は少年院じゃあないので、少年の立場からすれば

「今ごろ少年院に入っていたかもしれないと思うと…よかった!」

という具合に感じて 「軽い処分」 で済んだと捉えられるのかも知れないです。


しかし

補導委託でお願いしていた施設は、民間の施設であり、その中味はさまざまなのです。

開放的で自由度が高いところが多いですが、施設ごとにルールがあります。中には、厳しいルールがあるところもあるんです。


試験観察と告げた途端、審判廷で目を輝かせる少年と親 (でも、たいがいは目を合わせない) を見ていると

「これから入ってもらう施設は、あまりラクなところじゃないんだけどなぁ」

と思うこともありました。

個人的には、

「あそこに入るのは、少年にとって、少年院にはいるより厳しいだろうなぁ」

と思うような施設も、あるのです。


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関西弁調査官が空きをみつけてきた施設は、わたしからすると

「厳しいルールがあるところ」

で、少年によっては、少年院よりも厳しいと受け止めるのではないかと思うような施設でした。

「厳しいルール」といっても、単なるアナクロなスパルタ式というわけではなくて、

「それは施設管理者ご自身やそのご家族にとってもさぞ大変だろう」

と思わず頭が下がってしまうような、そういう厳しいルールがあるところなのです。


(考えてみれば、委託施設であれば多かれ少なかれどこでもそうなんですが、一応、ここではこの辺の表現にしておきます)


そこは、われわれからすると有名なところで、だからこそ人気があってなかなか「空き」がでないのでした。


「よく空いてましたねぇ」と言うと

「実は、前々からあそこにお願いしたくて、狙っとったんですわ。まだやったことがなかったもんで…」

と関西弁調査官は言いました。

「とりあえず、もう一回記録読ませてもらって…」

「まさか」 関西弁調査官は目をむきました。ワイシャツの襟が汗で汚れています。 「せっかくのこの話、もし駄目になるならそれも早めに先方に伝えなきゃいかんので…」

「あ、わかってます。もう、明日か明後日か、そのくらい…あ、でも今日明日はずっと審判が入っているから、しあさってかな…」

関西弁調査官は、不安げな顔をしたまま、部屋を出て行きました。


その施設は、それまでに1回、担当した少年を預けたことがあり、その管理者の方…というか代表者の方というか…まぁ便宜上管理者としておきますが、その人と会ったことがありました。

会ったところ、やはりその並々ならない日々の努力とこれまでの体験に感服し、その委託施設に対する信頼が一層高まる思いだったのですが、なんというか、管理者の方のお話ぶりが、なんともいえない独特の落ち着いたトーンで、ま、ぶっちゃけ陰気なムード満点だったのです。

そして、次々と出てくる既存の制度に対する批判、怒り、世間の無理解に対するやるせなさ…


「に、苦手だな…この人…」


率直なところ、そう思いました。

管理者の方の声は、小さく、低く、延々と続きます。

この人の話を直接聞くのは、15分…いや10分が限度か…いや…

そんなことを思うだけで、相手に伝わってしまって、自分自身が非難の対象になってしまうかもしれない…

そんな心配をした途端、管理者の方は

「これは前にお会いした○○家裁の裁判官なんですがぁ、ちっとも少年の更生のことがおわかりでない…それなのにわたしの前ではねぇ…まるでわかったフリしてねぇ…」

と語りだします。

背中を冷や汗が流れます。



そういう思い出があったのでした。

あの施設なのか…また、あの施設に頼むのか…

関西弁調査官が置いていってくれた社会記録を読みながら、あれこれ考えました。

熱心だなぁあの調査官。


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翌日、昼休み、部屋からその関西弁調査官に電話しました。

「あのう、ジェイですけど、おりいって相談があるんですが…」

「なんですか?」

「ちょっと一緒にお昼たべに行かない?」