相手方である夫と弁護士さんに、もう1回調停室に入ってもらいました。


「次回期日を入れます。」


ぶっきらぼうに言いました。言って、それぞれの表情をうかがいます。


申立人である妻は…無表情

相手方である夫も…無表情

夫の代理人である弁護士は…やれやれといった顔で法廷日誌を取り出します。


調停委員や書記官も合わせた全員で、次回期日を決めます。

全員が都合がいい日でないと、期日が入れられません。


「じゃ…次回は○月○日ということで…あ、あと申立人の方」


申立人である妻がこちらを見ます。


「親権のことは、よく考えてきてください。さきほどのお話をそのまま相手方にお伝えしていいのか…あと相手方の方も…」


相手方もこっちを見ました。その目を見返します。

もう次の事件の期日の時間になっているので、長く話せません。

有無を言わさず次回期日を入れることにしましたが、ひと言でも相手方に言っておかねば…


「あなたもね、これから、どう、したいのか…」ひと言ひと言ゆっくり言いました。「よく、よく、弁護士さんと話し合って考えて、次回よぉく聞かせてください。とくに…」


弁護士は、もう、立ち上がろうとして腰を浮かせています。


こらえ性のないヤツだなぁ。

でもね、このタイミングは狙ってたんだからね。あんたは狡いやつだが、実はこっちも狡い。

この場面は、本人双方に真剣に考えてもらわなきゃいけないところだろう?


「お子さんのことです。選択肢はね、そんなにない。きょうだい離ればなれの今のままで行くか、2人とも向こうにみてもらうか、それとも…」


相手方は、こっちをみたまま目をそらしませんでした。


「2人ともあなたがみるか…そういう選択肢は最初からないか」


相手方は、弁護士に「さ」と促されて、席を立ちました。


当事者が出ていった調停室で、残った調停委員がため息をつきました。