法律上、離婚訴訟を起こすためには、まず、調停の申立てをしなければならないことになっています。
調停前置主義、といいます。
実際、調停の手続はなかなか勉強できる機会がありません。
司法試験でも、訴訟法は試験科目にあるのですが、調停法はないですね。
司法修習中も、その気にならないと、なかなか調停までは手が届きません。
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「だから、うっかりすると、家事調停は、裁判を起こすまでの間に通過しなければならない門でしかない…と思っている弁護士さんはいると思いますよ」
と、廊下を歩きながら調停委員に言いました。
調停委員の方は「はぁ…」と不満げです。
調停室のドアノブを握り、力を込めて開けました。
室内には、体の大きな弁護士が座っています。
「お待たせしました」
弁護士は、腰を浮かせ「ああどうも」と大きな声で言いました。
「書記官と調停委員から話はうかがいましたが…」
と言うと、終わらないうちに弁護士が口を開きました。
「いやあのね裁判官、ちょっと話し合いは無理です」
言いながら、片手で自分の鞄を持ち膝の上にのせています。
ははぁ 帰り支度ですか。
「不成立ですかね、まだ1回目なんですけど」
「不成立でしょう」
弁護士は、まったくひるみもしません。
「一応、ご本人のお話を聞いておこうと思うんですけど」
「不要です、訴訟しますから」
「 … 」
とりつく島もありません。
ま、1回目だけど、不成立でも仕方ないか…と内心で思いました。
弁護士は、早口で続けます。
「ご本人達は、もう長いこと離れているんです。戻りようがないです。」
「 … 」
「ただ、金のことで揉めている。さっさと片付けた方がいいでしょう。」
「あの…」
口をはさむと、弁護士は、無意識でしょうが、眉を寄せてこっちを見ました。
やれやれ…
「ええっと、お子さんがいるんでしたかねぇ…」
「はぁ?」
「ひとりずつ、お互いが引き取っているんでしたっけ…」
「あー」弁護士は目をそらして、笑いました。
「子どもね、子どもは、どうだっていいんです」
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前に、このブログで、大人みんなが少年のことを軽くみている…という話をしたことがあります。
それは、いろいろな局面であらわれてくる話だとも、書きました。
この弁護士さんが、そうだったかどうか、確かめたわけではありません。
しかし、当時、少年事件が本務だった立場からすると、スルーできない一言でした。