エライ人との飲み会は、むかしから苦手です。
それでも、なぜか、飲み会で所長の隣の席になってしまうことがありました。
「ジェイさん、いま忙しいですか?」
こういう質問は、なにげなくきます。
「は…? えっと…」
「少年も結構事件がきてるようですからねぇ」
「いえ、忙しくありません。わりと暇です。」
「そうですか?」
「はい」
この、「わりと暇です」なんて一言が余計だったりするんですが、その時には気がつかない。
「いま家事の方は、か な り 忙しいようなんです」
「はぁ…」
「○○部長のところなんか、調停が去年の倍ぐらいになってしまって…□□さんは支部へのてん補もあるしねぇ…人訴も増えています。」
「そりゃー大変ですねぇ」
「ジェイさんは、家事事件の経験あまりないでしょう?」
「はぁ、あまりよく知りませんが…」
「ちょっとやってみませんか…研さんも兼ねてってことで。うん、事務分配上も正式にやるかたちにして…そうだ、部長の事件を少しわけるようにすれば、簡単です。調停だけですから。」
「そりゃもう」
何年も前にあった話を今から振り返ってみれば、この辺りまでで「ん???」とひっかかるところがあるんですが、肝心な話は酔った頭でさりげなくスルーしてしまっています。
「えっと…」
「いや~さすがジェイさん、余力がある。」
「あ…ああ…はぁ」
「たしか、○曜は空いてますね? あと○曜もね。在宅はかなり入るんですか?」
さきほどからの所長の言葉が耳から入って、神経を伝ってようやく脳に到達し、今どんな会話を誰としているか理解し、ようやく適切な回答をチョイスします。
「はい! もう、在宅事件は在宅事件で多いんです。結構これが忙しくって…」
「それは、何とかなりますよね」
所長は、こともなげに言いました。
「さっそく、明日、家事部の方にも話をおろしておきますから」
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次の日
「失礼します」
部屋で仕事をしていると、家事部の書記官が入ってきました。
「家事部の○○です。ジェイさんの係になりました。」
「え…」
顔を上げると、書記官に続いて調停委員が中腰の姿勢で入ってきます。
「さっそく相談です」