試験観察で補導委託をお願いする委託先は、民間施設です。
実際に訪問すると、「委託先」とか「施設」といった言葉からくるイメージとはうらはらに、小さくって、住宅街の中にあって、うっかりすると普通の住宅にみえる建物だったりします。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
そこでのクリスマス会は、施設の中でも一番大きい広間が会場になります。
20畳…30畳ぐらい…ちょっと記憶がはっきりしませんが、前にステージというかひな壇が作ってあって、観客は目の前の畳に座ります。
観客は…3分の1ぐらいが調査官などの家裁関係者、残りは少年たちの父兄です。全部で…30名?かもうちょっと…
なにしろ、畳の上にぎゅうぎゅう詰めです。
部屋の中は、手作りで飾り立ててあります。
会が始まりました。
進行は、施設長が、カラオケ用のマイクを持ってやります。
演し物は、歌とか、作文の朗読とか、そういった素朴なものを施設に入っている試験観察中の少年(女子)がやります。
学芸会のような雰囲気がありますが…近所の保育園の子供達が来て歌を歌う…といった演目もありました。
日ごろ、施設と交流があるそうです。
小さい子どもを前にすると、…かつて恐喝や強盗などの非行をした彼女たちの表情が、やっぱり変わります。
彼女たちが自分で作った台本の劇がメインの演目でした。
観客の中の調査官も、ステージに上がります。
歌を歌った調査官たちもいました。
広間といっても、観客も合わせて何十人もいるので、相当に狭いんです。
ステージに立つ彼女たちは、すぐ間近にいるわけで、…そのせいか、開演早々、観客席というか桟敷席というか、…父兄席か、父兄席には涙を流している方が多かったです。
クリスマス会ですからね、雰囲気がいいんですよ。
隣に座ったヒヨコ調査官をみると、彼女も涙をぬぐっていました。
わたしも、実際にみて感じましたが、日ごろの施設での生活の成果を父兄に伝えたい…という目的意識があって、なかなかイイ会なのです。
説教じみたことを言わずに、ただ、照れくさそうに歌を歌ってひっこむ調査官も、いい…。
最後は、彼女たちが、来てくれた父兄にそれぞれクリスマスカードを手渡して、お礼を言うという挨拶で閉幕です。
これは、桟敷席にいるそれぞれの父兄に彼女たちが一斉に歩み寄って、それぞれ、手渡しで気持ちを伝えるわけで、一応、これがクライマックスということのようでした。
「がんばりなさいねぇがんばりなさいねぇ」
そう言って泣いている親御さんばかりです。
あっ…
そういえば、れーかちゃんには、両親がいないのでした。
「今日は、れーかちゃんのおばあちゃん来てるの?」
隣のヒヨコ調査官に聞くと「何ヶ月か前から入院しているんです」と言われました。
「じゃあ、今日は彼女に会いに来てる家族はいないわけ…」
そう言って前を向いたら…
目の前にれーかちゃんが立っていました。
泣いています。
「今日は本当に遠いところをお越しいただき、本当にありがとうございました。ヒヨコ調査官から、絶対ジェイ裁判官が来てくれるからって言われていたので、とても嬉しかったです。」
彼女はそう言いながら、クリスマスカードが入った封筒を差し出しました。
表に、クリスマスツリーの絵が描いてありました。
まるで小学生が描くようなクリスマスツリーでしたが、色鉛筆で、丁寧に色づけがしてありました。
「あ…いや…」
そう言って言葉に詰まりました。
「わたしも嬉しい~~」 ヒヨコ調査官はそう言ってなぜか号泣しています。
「ばーか」 照れ隠しにヒヨコ調査官に言って、
「ありがとう」
とれーかちゃんに言いました。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本当は、この時、後任の裁判官がれーかちゃんの試験観察の担当になっています。
その裁判官は差し支えのため来られない…とは事前にヒヨコ調査官から聞いていました。
「だから、その代わりなんだろう?」
とヒヨコ調査官に言っていたのですが、後になってみると、ヒヨコ調査官が仕組んだことだったのかも知れません。
とにかく、すでにこのケースは自分の手を離れていたので、最終的な終局処分をわたしがすることはできないです。
わたしの担当は、すでに試験観察にする決定を出したところで、異動のため時間切れだったわけです。
なので、れーかちゃんの話は本当にそこでおしまいだったのですが、何人かの方から続きを待つコメントやメールをもらううち、その後のクリスマス会に行ったのを思い出して、それが一応の続きというか番外編になるか、と思って書きました。
その後、終局処分がどうなったか、再非行があったか、今どうしているか、まったく知りません。
家裁では、再非行で戻ってくるケースは扱いますが、立ち直ったケースのその後は扱いません。
頑強に否定したがる人が居ますが、しかし、中には立ち直るケースがあるんです。
再非行率は100パーセントじゃないしね。