「えっと…なんですか?」



思わずうろたえます。



K先生は体をねじってこっちを見ました。



「わたしからも少年に話したいんです…それから…」



「はい」



「わたしが証拠を出すことってできますか?」





は…


なんですと!?


証拠?


証拠って…どんな証拠?





なんなんだ!


意味がわからない…






わかりませんが、なにかがありそうです。


なにかがあるなら、K先生を頼んだ甲斐があったってもんだ…腹をくくります。




「証拠…なら、だせますよ…もちろん…」




「ありがとうございます!」




K先生はれーかちゃんの方に向き直りました。


「先生、座ってもらってかまいませんよ」


「いや、この方がいい…立ったまま言わせてください…○○れいか君…」




K先生が話し始めました。


れーかちゃんは黙ったまま下を向いています。




「わたしが誰だかわかるかい? 鑑別所で会ったね」


「 … 」


「君のことは一生懸命記録を読んだ。しかし、君とはあまり話すことができなかった。今日も君は自分の言葉で話をしようとしない。」


「 … 」


「いろいろ話をしたかったけど、仕方がない。でもね、付添人になったからには、ベストを尽くそうと思った。そこでね、君には言ってなかったけど、お兄さんに会って話をしようと思った。」


「 … 」


「それでね、いろいろと調べた。おばあちゃんとは話をさせてもらった。おばあちゃんはね、本当に君のことを心配しているよ。」




K先生の口調は、ゆっくりで、やわらかく、よどみがありませんでした。




自分もこんなふうに話したいものだと…なんとなくそう思いました。


自分の口調は、…自分でわかるんですが…早いんです。


よくないなぁと思いました。


こうやって話せば、少年の耳にもスッと入るだろうなぁ…




「それでね、お兄さんの所在つきとめたよ!」


「 … 」


「会うことができた」





会っているんだやっぱり…


どんな話をしたのかなぁ…




「○○市ってところで、会社に勤めている…元気そうだ。」




れーかちゃんはまったく無反応です。


聞いているのか?






「妹の審判に来てくれないかと頼んでみた。君のいまの状況を話してね、兄として、なにかできないかと聞いてみた。」


「 … 」


「そう頼むとね、やっぱり引き受けてはくれなくてね…これは、ちゃんと考えてもらう時間があまりなかったからかもしれない。裁判所ってあまり来たいと思うところじゃないからね、そういう理由かもしれない。あるいは、やましいことがあるからかもしれないな。」





なんか、スレスレのことを話すなぁ…と思いました。


性的虐待の話があったことは、K先生も知っているはずです。


そのことを知ってて、わざと、そのことに触れそうで触れないようなところをわざと話してる…





「昨日も会いに行った。頭を下げて頼んだんだが、…結局、断られてしまった。」


「 … 」


「本当は、お兄さんを、首に縄をつけてでも引っ張ってきて、ここで…君に謝罪させたかった。」


「 … 」


「彼は、君に謝るべきだとは思わないか?」






れーかちゃんの反応はありません。


ありませんが、なぜか、隣に座っているおばあちゃんがハンカチで目頭を押さえました。










K先生はいきなり上着の内ポケットに手を入れて


「お知らせがある」


と言いました。




そして、まるでサムライが刀をぬくように、ゆっくり内ポケットから1枚の紙をだしました。





「君のお兄さんから…













ルがきた」




えっ!?




「パソコンでインターネットやっててよかったよ。短いメールだけど、読むよ。」




ええええっ!!!




みんなが魅入られたようにK先生の言葉を待ちました。


廊下で遠くのドアが開く音が聞こえます。














「K先生ゆうべは失礼しました。


妹の審判には、やっぱり出られません。


出る理由がないと言った言葉は撤回しません。


しかし







泣けてきました。




メールで許してください。」
















K先生は、そう読み上げるなり、「証拠として提出します」と言って座ってしまいました。







ん~   あーー






どうすればいいんだ。


予想外の展開…


中途半端なのか…パーフェクトなのか…よくわからんメール…


証拠って…これが…??




だいたい…


誰がどうやってこのタマを拾うのだ…?

















れーかちゃんをみると







泣いていました。











ええええええええっ!!!!!


∑ヾ( ̄0 ̄;ノ









「がんばってみる気はもうないかしら?」



これはK先生の隣に座っていたもうひとりの少年友の会の女性の付添人が言いました。



れーかちゃんは、付添人の席に目を向けます。


泣いてる…間違いなく、彼女は涙を流している!



彼女は、首を縦にも横にもふらず…




「ありがとうございます」




と言いました。












しゃ… しゃべった…      (  ゚ ▽ ゚ ;)









ヒヨコ調査官がクルリとこっちを向きました。





な、なにか…??


そう思ったら、彼女は、力強く



「休廷お願いします」



と言いました。








そ、そうだったねぇ…そうだった




「き、休廷します…ええと」






言い終わらないうちに、ヒヨコ調査官は立ち上がり、



「れいかさん


さっきの部屋で待ってて


すぐ呼ぶからね」



と言い、押送の職員に



「お願いします」



と声をかけました。







彼女は、押送の職員に「さあ」と促されて立ち上がり、付添人に向かって深々とおじぎをしました。