これも、とある施設に出張で行った時のことですが…
その時呼ばれたのは、家裁の裁判官や調査官だけじゃなく、関係機関の職員も多くいました。
裁判官は…わたしのほかにも数名いたと思います。
で、施設側から、いろいろ説明を受けたり、見学させてもらったり、したのですが…
いちばん驚いたのが、施設長から
「仮退院時には、少年全員に遵守事項を暗記させています」
という説明があったことでした。
この施設長からの説明を、補足しますが、
少年院を仮退院する際(あ、施設が少年院だとバラしてしまった…って今更いいや)、自動的に保護観察の手続になります。
自宅には帰れますが自由の身というわけじゃあないんですねぇ。
この保護観察は、受ける側が守らなくてはいけない約束事項が幾つか定められます。
これを遵守事項といいます。
今は変わったかも知れませんが、一般遵守事項と特別遵守事項がありました(変わってないかも知れないなぁ)。
「夜遊びをしないこと」
とか
「悪友との交際を断つこと」
とか
そういった約束事です。
で、そこの少年院では、仮退院時に、少年ひとりひとりにそれぞれ遵守事項を暗記させて、社会に送り出していると、そういうわけです。
多くの方にわかってもらえると思いますが、遵守事項はそう難しい内容ではありません。むしろ、内容的には当たり前のことといえると思います。
最後に、来訪者全員に発言を求められました。
こういう時って、裁判官が最初か最後なんですよねぇ。
で、わたしは
「遵守事項を暗記させていると聞いて驚きました」
と言いました。
「なぜなら、少年院を出た後の再非行で来た少年を審判する場合、遵守事項をきちんと答えられる少年がほとんどいないからです」
これには、施設側の職員がどよめきました。
「それ…本当ですか」
と施設長から質問がありました。
別に統計をとっているわけじゃあないんですが、審判をしていた経験からすると、遵守事項をきちんと答えられる少年なんかほとんどいやしない…というのが率直な実感です。
保護観察中の約束事を覚えていないからこそ、再非行するんだろう…と、さして不自然にも思っていませんでした。
しかし、そこではかなり徹底して遵守事項を暗記させていたらしいんです。
だから、わたしの発言は信じられなかったようでした。
続いて、別の裁判官がコメントを求められました。
「実は…わたしの審判でも、遵守事項を答えられる少年はいません」
言いにくそうに、その裁判官が言いました。
わたしにすれば、やっぱり、遵守事項を暗記させるといった働きかけまで少年院でやっていたことが驚きでした。
とってつけたように、ただ言葉だけ記憶させても、それが短期間で消えてしまうようなら、意味がないように見えるかも知れません。
でも、ザルで水を汲むようなことかも知れませんが、やらないよりははるかにマシです。
少年院でそこまで取り組んでくれるところがあるのか…
わたしはそう思いました。
われわれの目の前には、再非行という失敗例しか来ません。
立ち直れた少年は、事件を起こさないですから、また審判の場に来ることがないです。
失敗例ばかり見せられている側としては、もう、全体が失敗例なんじゃないの?と錯覚しがちです。
あの時の施設長(院長)さん、そういうわけなので悲観することないんですよ~。