A 「いや~おつかれさまでした」


プシュ!


B 「おつかれさまでした~ かんぱーい」


A 「かんぱーい」


カチン! ビール



A 「今日のは予定時間を超えちゃって長かったですね。」


B 「つかれた…」


A 「質疑応答で紛糾しちゃったですね」


B 「あ~あれはちょっと…」


A 「少年事件はどんな事件であっても、ぜんぶ厳罰に処すべきだと思うんですが、家裁からみてどうですか?って…」


B 「あの人、県の福祉課の人ですよ」


A 「えっほんとですか?」


B 「あの人のまわりに座っていた人もみんな県庁の人ですよ」


A 「気付かなかった」


B 「福祉課としての発言じゃないんでしょうけど。名乗らなかったし。」


A 「結構、食い下がってましたね。検送の決定が少なすぎだとか、甘すぎるとか」


B 「アバウトな質問だよなぁ~『厳罰に処すべきだと思うんですがどうですか』なんて…」


A 「自分は、自分の子どもを厳罰主義で育ててます!って言ってましたね」


B 「でも、どうやって子どもに厳しくルールを教え込むか悩んでるとも言ってたですねぇ…あの人も親なんですよ」


A 「悩まない親よりいいか…案外、今日来ていた人の大半は同じような思いを抱えてるんじゃないですかねぇ」


B 「しきりに頷いている人居ましたよ、あの質問というか意見があった時」


A 「やっぱり、今日みたいなのに来る人って、無意識のうちに家裁に答を求めに来てるんじゃないですかねぇ」


B 「ん? どういう意味?」


A 「実際、自分のところの子どもがグレちゃってるとかグレかかってるとか、そういう親御さんが、自分はどうしたらいいんだろう?って悩んで、その答を家裁が提示してくれるのではないかと…」


B 「あーあー」


A 「審判でもそういう感じの親御さん多いじゃないすか」


B 「そーねー」


プシュ!


A 「もう1本あけたんですか?」


B 「へへ…Aさんもどう?」


A 「ぼくはちびちびで」


B 「悩まない親なんかいないのにな~!」


A 「 … 」


B 「ちょっとした在宅の審判で、親が安易に『どうしたらいいかわかりません本人次第ですから』なんて言ってるの聞くと、シラケちゃうなぁ」


A 「それでいいんですか?って突っ込むと、じゃどうしたらいいんでしょうか?ってくる…」


B 「そうゆう親って…」


プシュ!


A 「え? もう3本目?」


B 「いやいやぬるかったんですよこれ」


A 「…って、これ…全部飲んでるじゃん…」


B 「そういう親って、なんか、恋愛マニュアルがないとデートに行けないタイプじゃないかな~」


A 「はぁ? なんですかそれ?」


B 「いや~わたしひそかに思うんですけどね…親子っていったって、所詮は別の個体の生き物なわけですよ。そこでの個体と個体の関係って、いってみれば精神的なつながりだけのものだから、なにもしないでいて自然に親子の関係が神様から与えられるわけじゃあない」


A 「 … 」


B 「ところが、親の方はもう一方的に子どもに対して愛情をもってしまって、そこからスタートする。これって、片思いでしょ? 恋愛と同じですよ。」


A 「れ、恋愛?」


B 「そうそう。片思いだから、相手はどう思っているかわからない。自分と同じように相手が好意を持っているかどうかわからない。でも、ヤミクモにアタックして、振り向いてもらえないと、拗ねる。」


A 「拗ねる?」


B 「拗ねる。拗ねて、いとも簡単に『ま、相手次第だから』なんて言い出すか、逆にストーカーになるか…」


プシュ!


A 「ええっ??」


B 「いやいやこれはAさんの分。まーどうぞ」


A 「ぼくまだ1本目飲みきってないですよ」


B 「じゃぼく貰います」


A 「はぁ…」


B 「でね、それじゃまずいかなってなると、マニュアルですよ。『横浜1日デートコース、これで彼女のハートをゲット!!!』みたいな、そういうやつ」


A 「 … 」


B 「親たちはそういうマニュアルを家裁に求めてる! あの県の福祉課のヤツも、たぶん、そのマニュアルを家裁に求めてる。」


A 「そーかなー」








そうかなあと言いつつ、わたしは彼の話が面白くなってきていました。


Bは冗談で話し始めたと思うのですが…わたしは単なる酒飲み話と言い切れないなにかがあるような気がしてきました。





B 「彼らは恋愛下手だと思う! 自分がセクシーで相手に好かれて当然だと勘違いしている」


A 「それは…親が? それとも子が?」


B 「親…あ、でも子もそうかな」


A 「Bさんは…モテたんですか? もしかして恋愛の師匠ですか?」


B 「モテ期は過ぎました」


A 「わはは! そうなんだ」


B 「だからモテない人の気持ちはわかります」


A 「じゃあ、モテずに片思いで悩む親が、子どもにその思いを伝えるには、一体どうすればいいんですか?」


B 「おお! それ!」





B裁判官は、嬉々として5本目の缶ビールを手に取りました。




A 「Bさん、つまみもないのによくそんなに飲めますね~」


B 「わたしの親子関係イコール恋愛関係説によれば、それもおのずから答が出るのだ!」



B裁判官はそう言ってプシュ!と缶ビールをあけました。