「もしもし」


「もしもし」


「たびたびすいません。家裁の○○です。」


「こちらこそすいません」


「ぐ犯の送致書の件ですけど…」


「はい」


「いまから、こちらで、審判に付すべき事由を起案して、そちらにFAXで送ります。それに、追加書類送付書でも捜査報告書でもなんでもいいんで、適当な表題をつけた紙を重ねて、すぐにこちらに持ってきてもらえますか?」


※   ※   ※



ぐ犯の少年を家裁に送致する場合、送致書の「審判に付すべき事由」の欄には、例えば


「少年は、平成○○年○月○日から○○市○○町○丁目○番○号の自宅を出て帰宅せず、知人宅や公園などを転々とし、付近のコンビニエンスストアで万引きをくりかえしており、保護者の正当な監督に服しない性癖があって、正当な理由なく家に寄り付かないものであり、このまま放置すれば、その性格又は環境に照らして窃盗罪等の犯罪を犯すおそれがある。」


といったように具体的に書いて、どのようなぐ犯性があって(家出して万引きを繰り返している)、それがどのぐ犯事由になるのか(保護者の正当な監督に服しない性癖がある、正当な理由なく家に寄り付かない)、明示する必要があります。


なぜ、そのような記載が必要なのか?


その答としては、


審判のテーマを特定しないと手続上の攻撃防御に窮するからとか、そういった理屈も大切なんですけど、


なんといっても、観護措置手続ができないから、という実務的な要請があります。


観護措置の手続は、勾留質問の手続と同じなんですよ。


「いつ誰がどこで何をしたか」


これを少年に読み聞かせ、弁解を聞く必要があるんです。


「少年法3条1項3号イロハ」


としか書いてなかったら、それを読まれても、少年は自分がなんて答えればいいか、わからないじゃないですか…。


※   ※   ※


送致書には、添付資料(疎明資料)が必要です。


少年がぐ犯かどうか、心証を獲得する必要があります。ぐ犯少年でないことが明らかな少年の場合、少年鑑別所に入れることはできないのです。


この添付資料は、ある程度の中身が必要です。少年が万引きを繰り返していたなら、そのことがわかる資料が必要です。


この辺がミソです。


その万引きは、ぐ犯ではなくて、触法や非行でしょ?という疑問が湧きます。


そのとおりなんです。理屈上は。


しかし、ここではぐ犯性を基礎付けるだけの内容で十分なので、たとえば、被害品が特定されなかったり、万引きの日時場所が不明だったり、そういった事実でもよいのです。家出してて、そういう悪さを繰り返しているらしい…じゃあ、将来、窃盗罪を犯すおそれがあるなと…そういう思考順序なので、「そういう悪さ」はある程度概括的なところでいいです。


この「そういう悪さ」がなくて、「家出」だけだと、ぐ犯として苦しいです。


あくまで理屈の問題ですが、親元に帰らない少年の概念の中には、まっとうな理由があってそうなっている少年も含まれるわけですから。


それになんといっても、少年が観護措置手続で、否認した場合、それでもぐ犯少年だなという心証を得なければ観護措置がとれません。

異議が出れば、異議審でその観護措置の当否を審査しなければなりません。


そういうわけで、家出したこと、万引きを繰り返していることについて、「審判に付すべき事由」に挙げてもらうだけでなく、添付資料がどうしても必要なんです。


※   ※   ※



しかしながら、「この子をぐ犯で観護措置とってほしいんですけど」という打診があっても、たいがい、こういったところでひっかかってしまって、冒頭に書いたように、こちらでかなりテコ入れしてようやく手続に乗せることが多いんです。


こちらがテコ入れしてやるのは、べつにいいです。(大変おかしなことではありますが)


困ったなと思うのは、こういうぐ犯の概念がちっとも関係機関に知られてない(だから手続もスムーズに始まらない)というところなんです。