審判の最中に、少年の処分を変えようと考える時…

こりゃまぁ、いろいろあるので、なかなか「こういう場合」と整理して的確に説明するのが難しいです。


だいたい、少年事件に関するコトを的確に言葉で表現するって、ムズかしいですよ。


まーそうなんですけど、いろいろあるなかでですね、わたしの場合、調査官の意見を採用するはずだったのを変えさせてもらったケースとして、


審判中に、少年自身やその家族などに資源を発見した場合


を挙げることができます。

ここでいう資源というのは、石油やガスのことではないです。

その少年にとってプラスになる資質とか社会的関係といったものを指します。

石油やガスなどの自然界の資源と区別して、社会資源なんていいかたをします。


この少年、学校で頑張れそうだ…学校の先生がこうやって審判にも出席して応援すると約束してくれているんだから…なんていう場合、学校や教師が少年にとっての資源になっていると考えるわけです。


たとえば


家出、不登校の果てに集団傷害事件を起こした少年女子…

法律記録(捜査書類のこと)、鑑別結果報告書によれば、父は日ごろ仕事で子どもと接点が乏しく、体罰が激しかったこと、母は過干渉でこれまでの子どもの非行を父に隠しており、子どもの問題性から目をそむけている親であること…そういう家庭であるとわかるところ、

さらに、少年調査票によれば、

もともと父母が以前から不仲で、離婚するかどうかの話が出ており、両方ともすでに新しい相手がいるため、自宅には、少年だけでなく、父も母も不在がちという生活状況である…調査官の調査面接には、母だけ応じて父は不出頭

なんていう事情が判明しているとします。


こういうケースは、少年審判やっていると、非行少年の家庭としては、ごく標準ってところで、べつに珍しくもなんともないです。

すでに、在宅の前歴がいくつかあるような少年だったのであれば、そろそろ少年院収容を考えなければなりません。


前歴の記録をみると…お、親御さん審判には揃って来てるよ…ってことは今回も来るかなぁ…

ふむふむ…調査官の面接では、母は父に対する不満を述べることに終始してたと…父は子どもとの関わり合いに問題があったことに気づいてないようだが母もそうだと…ってことは審判は何か言ってくれるのかなぁ…

調査官は、少年院送致意見…ま、そうだろうな~被害者の女の子、重症だしなぁ…少年本人は懲りてなさそうだしぃ…


さて審判廷では…

案の定、少年女子は最初っからふてくされ、両隣の両親もそっぽをむいている…互いにダブル不倫しているだけあって、おやじは結構若く見えるし、おふくろは化粧がキマってる。


裁 「ご両親のほうで、お子さんの処分に関するご意見はありませんか?」

父母 「 … 」

裁 「ないですか? べつに意見でなくてもいいんですけどね。」


反応なし。

少年院送致だから、いっか…と思いつつ、この、親子そろっての態度の悪さはなんなんだ…とムカっ腹が…


裁 「今回お子さん3度目の審判です。厳しい処分も大いにあり得ます。ご両親としては…なにもないんですか?」

少年 「チッ…(舌打ち)」

裁 「お母さん、どうですか?」

母 (小さい声で)「…ありません」

裁 「お父さんは?」

父 (声でかい)「ありません。まぁ、結局は本人次第でしょ? これまでいろいろあったのに立ち直れないままきたんだから、仕方ないんじゃないですか」


ぶち!!!


まてまて、こんな親よくいる…本人次第…つい口に出ただけさ…


あ!

おやじ、いま時計みた? みたよ。おいおい…子どもが少年院行きかどうかってときに…なんの用事があるんだよ~

もしや…不倫相手に会いに行くってか? 行くってか?


おんどりゃ~~~!!!   うぉりゃーーーー!!!


裁 「ええっと…ご両親にひとつ考えてみて欲しいんですが、お子さんが今日ここで審判受けている、3回目の審判受けている…これって、運命だと思いますか?」

父母 「 …??? 」

裁 「お子さんは、生まれたときから、今日ここで審判を受ける宿命にあったんでしょうか?」

父母 「 … 」

裁 「誰が、なにをしても、子どもが今日ここで3回目の審判を受けるという事態は防げなかったんでしょうか?」

父母 「 … 」

裁 「子どもが事件を起こしているのは子どもの責任で、立ち直るかどうかも子ども次第ってことは、子ども以外のほかの人は誰も子どもが事件を起こして少年院に行くのを防げないってことなんでしょうか? それって、結局、子どもにとっては運命なんじゃないんですか???」


まぁ、なんつうか、わたしもデキた人間じゃないんですね。

頭にくる時にはカッとなって日本語もおかしくなるし、ん~書いてて思い出したくない気分だ…


ここいらあたりで、また父親あたりが軽率な一言…


父 「いやいや…そうはいってないでしょ?」


裁 「言ってますよ!!! さっき、結局は本人次第、仕方ないって言ったばかりじゃないですか! 子どもの前でなにいっているんですか????」


ええと、もう少年担当を離れているんでいいんですがー…

ここらへんは、わたしもう大声だしてます

懇切もへったくれもないですねぇ _| ̄|○


裁 「もしも、今日この審判でお子さんが少年院送致になってですよ、いずれ社会に戻ります。そのときにですよ、帰る家はあるんですか? ないでしょうねー! 今度こそ決定的ですよ。わたしだったらまともな生活に戻る気はなくします。当たり前です。その時もお父さん同じこと言うんですか? 結局は本人次第、当たり前だって…」


わたしとしては、それじゃあマズいんだから、お子さんが少年院に行くことになっても、社会に出る前にどうするか、本気で考えてください…なんてところで話を落ち着けるつもりだったんです。

決して暴走審判じゃないですよ (^^ゞ

少年院に入る期間は、意外と短いんです。親が思っている以上に早く戻ってきちゃうんです。


が、しかし

「そうじゃないんです!!!」

と泣きじゃくる声。

見ると少年…。

「お、お、おやの…り、りこんと、あ、あ、あたしのやってることは…かんけい…ないです…」


「…だいたいあなたは、ちゃんと話し合おうともしないじゃないですか」

ん? お、おふくろさん! あなたしゃべれたんですね…

「これまでのことも、これからのことも、話し合おうとしない…」


おやじ沈黙。


困ったなーこの展開…と思っていたら


「だいたい、おれは離婚したいって思ってない。言い出したのはおれじゃない。」

「なに言っているんですか今になって…」

「いや、今までだっていつも…」


ん~なんか混迷していますが、

もはや裁判官そっちのけで、家族会議が始まっていますが、

あと5分で次の審判始めなきゃいけないですが…


「10分休廷します。君はさっきの部屋で待っていてください。ご両親は廊下の待合室に。準備できたらお呼びします。」

「調査官、ちょっといいっすか?」


ため息つきながら立ち上がる調査官…でもあなたもニヤけているじゃないですか。

わかっているんでしょ?

ほら、書記官だってニヤけてるじゃん!

今までああいう風にやりあうことさえなかった家族なんでしょ? 少年だって、鑑別所で親の面会があっても涙さえみせなかったんでしょ?

でも、この風向きじゃあ、話だいぶかわったんじゃないっすか…

ちょっと、待合室行って、ホントのところどうなのか聞いてみてくださいよ…やり直す気があるのかどうか…


それで、あるっていうんなら…


あの子、試験観察でだいじょうぶなんじゃないですか?