旅四日目 8月28日(水)
この日の目的は、この旅のメインテーマでもある。
「夜のピクニック」の舞台地を訪れることだ。
「夜のピクニック」については、大部分の人が知っているだろう。
本屋大賞も受賞した、恩田陸さんの作品だ。
僕は中三の時に(もう7,8年ほど前)初めて文庫本で読んだ。
その時の作品に対する感想がどうだったかは覚えていないが、後に映画化されて
DVDで見たときから意識するようになった。
その後、改めて小説を読み返したりしながら、段々と心惹かれるようになっていった。
高校生のある時、たまたま夜中に「夜ピク」の映画が放送されていて、当時は自分の部屋にテレビがなかったため、携帯電話のワンセグで録画をして、小さな画面で何度も見返したことを覚えている。
小説の方も1回読んではその余韻に浸り、またふと思い立った時に読み返すということを繰り返していた。
そうやって小説とDVDを何度も行き来することで、この作品の雰囲気であったり舞台となった場所へのイメージを膨らませていった。
文字で読んで自分が捉えたものと、映像で観た実際の舞台とを重ね合わせ、この作品に対する自分なりの世界観を築いた。
その世界観は揺るぎないものへと形を変化させ、いつだって脳内で再生することができた。
それは、行ったことのない水戸の街の様子であったり、人物たちの心模様であったり。
しかし今回水戸に行き、実際にロケ地を回ったことで、その世界観、とりわけ水戸の街に対する自分のイメージは薄くなってしまった。
それはあたりまえのことで、実物を見ると想像していたものがかき消されて上書きされてしまうということである。
しかし、高校生の時からずっと水戸に行きたいと強く思っていたし、ロケ地もこの目で見てみたいと思っていた。だからこうやって赴いたのだ。
実物を見たことによる幻滅なんてない。
ずっと脳内で思い描いていた想像が、実際の光景を見たことによって一種のリアリティをもって、
再構築されただけだ。
最も好きな作品であるだけに、想像は想像のまま置いておきたかったという思いは当初少なからずあったが、今は行って本当によかったと思っている。
そして、この作品がもっと好きになった。
旅に話を戻す。
まずは、泊まっていた「御老公の湯」から昨日のバス停まで歩き、バスに乗って水戸駅へと戻る。
昨日水戸に着いたのが夜だったので、どんな街なのかわからなかったが、
本当に綺麗な街だ。
水戸駅を境にして南北に街が広がっている様子があり、南側は少し行くと桜川という川が流れている。
南側は比較的オフィス街なのかなという印象。東西に桜川が流れているが、市役所などもあって、この大通り沿いにビルが並んでいる。
そして北側はどちらかというと、学校や史跡が数多くある感じ。
北から西方面に行くと、南側と同様にオフィス街となっているようだ。
この北から西にかけて通っている道沿いは、雰囲気的に昔栄えていたところなのかなと感じる。
百貨店などいろいろな商業施設があるなかで、昔ながらのお店があったりしている。
「大工町」という地名が残っていることからも予測できるんじゃないかな。
水戸駅に着いてからは、まず駅前のエクセルシオール(初めて入った)で朝食。
なんかのセットを食べた。
その後、千波湖のところにあるレンタサイクル所に行くために、水戸駅からバスに乗る。
水戸の中心部を突っ切り、千波湖まで行く。
千波湖周辺は大きな敷地に自然が溢れていた。
そこでレンタサイクルを借りた・・・しかし、その借りたチャリの前カゴ部分に番号が大きく印刷されたプレートが張り付けられており、めちゃくちゃださかった。
これで水戸市内を巡るのはさすがに無理だと思ったが、お金も払ったことだし諦める。
出来る限りカバンで隠した。でも隠れず。
バスで来た道を、ひたすらチャリで戻る。
大通りにさしかかる手前で、少し北上。
気象台前という交差点に着く。
ここが「ピクニックの準備」で、多部ちゃん(貴子)が自転車を押して歩いていた坂。
僕も実際に真似て、押しながら歩いてみた。
その姿を後ろから撮って欲しかったんだけれど、一人だし無理だからやめた。
この写真から見て右側は、とても景色がよかった。
遠くまで住宅が立ち並んでいる様子が見えた。
そして大通りの方へ戻る。
途中、水戸芸術館があった。
大通り沿いには、映画で使われた場所がいくつか存在する。
「ピクニックの準備」 融がスポーツ用品店から出てきたところ(反対側に貴子の投函したポストが見える)
この和菓子屋さんのすぐそばに、「ピクニックの準備」であった、融がマネキンを貴子と錯覚する着物屋さんがあった模様ですが、残念ながら今はもう廃業されていたようでした。
いずれにせよ、ここで実際に映画が撮られていたんだと思うと、わくわく感が収まらなかった。
多部ちゃんも石田君も西原さんも居たところに、実際に自分が居る。そう思えることが本当に幸せだった。
水戸駅方面へと大通りを引き返す。
弘道館の南側を通ると、水戸城祉通りの手前に橋がある。
この通りのすぐ横には小学校と高校、反対側には中学校がある。
また、弘道館の手前には三の丸小学校がある。そしてこの通りを行けば、映画の舞台となった水戸第一高校がある。
この近辺はかつて水戸城があったらしいが、今ではこんなにも学校が集まっている。
そしてこの辺りにある学校、道などはとても整備されていてキレイである。
城下町の雰囲気が感じ取れて好きだ。
ここまでチャリで来たんだけれど、徒歩でも全然まわれると気付いたので、またまた千波湖方面に向けてチャリを漕ぐ。一刻も早くプレート付のチャリとおさらばしたかったから。
チャリを返却後、千波湖からはさすがに歩けないので、大通りのところまでバスで戻る。
そして弘道館の中に入った。
三の丸小学校と一体化していてなんかすごかった。
弘道館の裏手には細い坂道があり、ここも映画で使われていた。
「夜のピクニック」 登校シーンとクライマックスの坂(上から)
映画では、この坂を登りきったところすぐに学校があったけれど、実際は違うみたいだ。
学校の入り口とつながっているものだと勘違いしていたため、こんなところにこの坂があるとは思ってもみなかった。
人通りもあまりなく、どこかひっそりとした印象をうけた。(昼時だったからか)
融 「最後の青春するか」
貴子「最後の青春するぞ」 っていうシーンですね。
この坂を実際に下って登りましたが、結構急できつかったです。
そして大手橋を再度超えると
「夜のピクニック」 県立北高 出発とゴールのシーン
映画では北高でしたが、実際は水戸一高。
裏門のグラウンドの外から撮りました。
映画ではさっきの坂を登るとすぐここに着く感じでしたが、そうではなく離れています。
水戸一高が今ある場所は、元々水戸城の本丸だったらしい。
その名残か、薬医門が校内に移されている模様です。
弘道館だったり城祉であったり、こういったものが近くにあるって本当に羨ましい。
自分も生まれ変わったならば、水戸に生まれて水戸一高に頑張って入って、歩行祭したいと本気で思う。
本当にこのあたりの佇まいが素晴らしい。
水戸一高を過ぎると、次は備前堀を目指して南に下る。
JRの上に架かる高架を通り過ぎ、桜川が見える。
「夜のピクニック」 桜川土手 団体歩行最初の休憩場所(実際にはもう少し向こう側かも)
この左手に見える高架は、どうやら大洗鹿島線が通っているらしい。
次来たときは乗ってみようかな。
そして柳堤橋というところにまで行くと、いよいよ備前堀が目前に見える。
その手前には、公園があった。
「ピクニックの準備」 忍が梨香に呼び出される公園 七軒町公園
この備前堀は桜川の疎水らしく、きれいに整備されている。
かつてこの堀を整備した人が伊奈備前守忠次だったことから、備前堀と名づけられたらしい。
備前堀沿いは柳の木が生い茂り、そして石畳が施されているため、風情が醸し出されている。
このあたりは、映画「夜のピクニック」の融と貴子が接近する部分で使われている。
この通りを、貴子と融は共に歩く。
貴子のささやかな賭けが、親友の美和子やニューヨークにいる杏奈、そして杏奈が差し向けた順弥、
忍、ゾンビ高見(笑)、その他大勢によって実を結ぶことになるのだ。
僕もこんな素晴らしい場所を、友達と夜を徹して語り合いながら歩きたい。
もはや叶わぬ夢だけれども、実際に訪れてみてその気持ちがより確かになった。
僕が行ったときは昼過ぎだったからあんまりだったけれど、夕方くらいになって薄暗くなると、柳の下にある灯篭が一層風情を醸すであろう。
あまり人通りもなく、ひっそりとしていたけれど平日の昼間だから当然か。
写真を撮ったり色々と感じ取りながら、この通りを歩いた。
映画を見ている限りでは、備前堀も学校のすぐ近くにあるような感じもするが、実際はかなり離れている。
映画と小説の世界で空想していた自分だったが、普通はそんなことないよなと思う。
己の勝手な想像では、高校の正門から坂を下り、少し行くと備前堀があって、そこを学生が登下校で通っているのかなという様子。
実際は全く違ったものだけれども、映画での自分の世界観はそれでいいのかなと。
実在の場所を使用するわけだが、その一部を切り取って組み合わせて構築するのが映画というものである以上(私見です)、それはそれで置いておくことが望ましいのかなと。
無理に現実と想像を比較すること自体がナンセンスだ、ということに気付かされた。
現実と空想、両世界を行き来させてくれるのが、映画なのかなと感じています。
思いつくままに書いているのでまとまっていないですが・・・笑
この旅で最も訪れたかった備前堀。本当に来てよかった。
十分歩きまわり、夕方にさしかかる手前におさらばした。
今年行けるかはわからないが、また来たい。
今はまだ、実際のロケ地を見てその印象が色濃く残っているので、小説や映画は観ていないんだけれども、また読み返して、観かえしてから来たい。
貴子と融が一緒に歩み進めたように、自分も出来れば誰かとゆっくり歩きたい。
駅方面に向けて歩き出す。再び桜川。
大きな駅のすぐ近くに川が流れていて、散歩する人、ひなたぼっこする人などが川沿いにいる。
駅のすぐ近くは少しゴミゴミとした感じがあるが、ここに来るとゆったりとした時間が流れている。
「夜のピクニック」の小説の中で、梨香が貴子と千秋と会話しているときに言う、とあるセリフがある。
それは、古い町で、あまり大きくなくて散歩できる自然がある場所が、独創的な学問がうまれる町の条件だということ。
京都や金沢がその最たる例で、学者のアイデアが浮かぶのも散歩中が多いとのこと。
まさしく水戸も、その条件に合致しているのではないだろうか。
忙しなく常に流動的に動く都市の中を流れる桜川、そのまわりに広がる緑道。
西に行けば千波湖と千波公園もあり、自然も多く残っている。
北には歴史を感じさせる建造物や街並みが広がり、城下町ならではの雰囲気が漂う。
ゆっくり散歩できる都市というのは、有りそうで無い。
こんなに素晴らしい町で暮らせるというのは、本当に羨ましい限りだ。
水戸に来て、心からよかったと思う。
多様な表情を持ち、どこまでも奥深い水戸を、僕は愛してやまない。
朝からチャリを漕ぎ、歩き通しでご飯を食べることをすっかり忘れていた。
遅くなったが、駅南通りの近くにあったマクド(水戸ではマックか?笑)で軽く腹ごしらえ。
大袈裟だけど、水戸を離れなければならないのが辛かった。
出来る限りゆっくり食べ、スマホの充電をしていた。
マクドを出て、駅へ向かう。
駅ビルの中を少し見て回り、おみやげなどを購入。
そしてこの後どうするかひたすら迷う。
明日自宅に帰る予定で、水戸で今日を過ごすと帰りがキツくなるということもあって、途中のどこかまで行こうか行かまいかと。
買い替えたばかりのスマホで必死に検索し、水戸から今日中に行けて泊まれる24時間営業の健康ランドがある場所を探す。
候補的には横浜か小田原だった。
小田原なら駅からすぐ近くに小田原城があり、明日帰る前に寄れると判断したため小田原に決定。
帰らないといけないという絶望感を胸に抱きながらも、水戸にお別れ。愛してるぜ、水戸!と心の中で叫ぶ。
泣く泣く電車に乗り込み、上野、新橋を経由して小田原へ。長い移動中、何を考えていたのかは忘れた。
小田原に着いた頃には22時とかそんなだった気がする。
こんばんは、小田原。
駅が結構でかくて迷いそうだった。
駅前のコンビニでおにぎりを購入し、駅近くの健康ランドへ。
やはり都心に近いだけあって、料金は比較的高かった。
御老公の湯や南大門に比べると、お風呂はイマイチだった。
しかし、5,6階建てくらいで、中は色々な設備が整っていた。
レストルームの簡易ベッドにも1人1台テレビが付いていたりしていた。
割と早めに寝たと思う。
この3日間の旅では、どうしても移動時間が長くなっていて、それで疲れるのかなと思っていたんだけれども、意外と移動による疲れは感じていなかった。
毎日の阪和線に乗っている約1時間よりも、今回の旅でのはるかに長い時間の方が短く感じるほど。
初めて訪れる場所というのは、やはり新鮮さがあって飽きないのだろうか。
毎日の通学の片道2時間ちょっとの時間に飽き飽きしていたのだが、今回は退屈だとかしんどいだとか、そんなことを思うことは全くなかった。
そして、とうとう旅も明日で終わり。
明日には大阪に帰っているのだろう。
終わらせたくないけれども、終わらせなくてはならない。
明日に続く。







































