基本的にご法度なお客さんとの恋愛。


それでも仲良くなる事はある。
いくらお金を貰ってサービスしている立場だと言っても
気が会う人の方が楽しいに決まってる。


辛い思いをしている時、
誰かに傍に居て欲しい時、
そんな時に支えてくれるような人だったら・・・・
ついコロッと行ってしまう時はあります。




彼女はそうでした。








もう、かなり昔の話。
当時アタシは昼間の仕事とピンサロを兼業していました。
そこで一番仲が良かったオンナノコ。


彼女の名前はAちゃんとします。
Aちゃんはとてもマジメで優しい子。

可愛い方ではあるけれどそういう店には不向きな性格。
その分、努力して報われるタイプといった感じです。
そんな彼女からある日相談を受けました。



「ねぇ、ちぃちゃん。やっぱお客と会うのはヤバイよね・・・」

「そりゃバレたら後が大変だよ。でも、珍しいね。
 そんな事言い出すなんて」

「うん・・・・・・。今までそういう事は考えた事なかった
 んだけど、あの人なら平気かなって思っちゃって・・・・」


遅刻も無し。
当日欠勤もなし。
勤務態度も良し。
性格も良し。

そんな彼女が規則を破りたいとまで思わせるのは
どんなオトコだろうと興味は湧きましたが、
そこはあえて追求せずにおきました。


でも、ピンサロは基本的に接客が見える仕組みに
なっています。暫く様子を見ていれば、彼女が誰に
対して好意を抱いているか位すぐ解りました。





ヤバイよ・・・・モロバレじゃない。
ちょっと見てただけで『違う』のが解るんだもん、
これ以上仲良くなれば、店にもすぐバレちゃうよ。




それが正直な感想。
でも、それも一つの人生かなとも思いました。
恋愛は自由。
それがどこでの出会いであっても、人の気持ちは
簡単に変えられるものではありません。
彼女がそれでも良いなら応援しようかな、ふと
そんな気持ちにさせられました。
本気でお互い好きあってるなら・・・・・


彼はひと月程前にフリーで来た、Aちゃんより少し年上。
30歳よりちょっと手前位でしょうか。
二人で話している姿はフツーのカップルとも思えるような
感じで好印象。
別に心配するような相手ではなさそうです。






「ココだけじゃなくて、昼間会いたいって言われてるの・・・・」




彼女の言葉がよぎります。




「あの人は他のお客と違う感じがするの・・・・・」








結局そこで忠告モドキの言葉はかけたものの、
それ以上は何も言いませんでした。
それから数日後、付き合う事が決まった、そう打ち明けられました。











それから一ヶ月位経った頃でしょうか。
明らかに状況の変化していました。



それまで週2は来ていた彼の姿は消え、
彼女も休みが増えていき、あげくには当日欠勤まで
はいる始末。






Aちゃん辞めちゃうつもりかな・・・・・






その時アタシはまだその程度にしか考えてなかった。
深く考えないのは悪い所なのだけど・・・・・。
でも何かあったとまでは考えてなかったんです。





当日欠勤でAちゃんが休んだある日。
フロアを覗くと彼が来ていました。
・・・・・アタシの指名で!?


指名替えなんて、この世界では良くある話。
普段は気になんてしないけれど・・・・。
でも、この場合は別。




Aちゃんと付き合ってるんでしょ?
アタシがそれを知ってるのも聞いてるでしょ?
なのに、今日、何でアタシに会いに来る??




席に着いた早々、彼に詰め寄るアタシ。



「Aちゃん今日は?会ってるんじゃないの??」


「いや、会ってないよ。
 と言うより昨日別れたんだよ。
 こういう所で働いてる割に、考え方が重くてさ」





はぁ???




「でも、別れたくないって言ってるんだよ。
 俺そういうつもりじゃなかったのにさぁ・・・・。
 ちぃちゃん仲良いじゃない?アイツに何とか
 上手く言ってくれないかなぁって・・・・。
 それで相談するつもりで来たんだよ。」






なんですと????





「今日の夜とか時間ない?
 ちょっとアイツの事で相談に乗って欲しいからさ。
 ココじゃ色々まずいでしょ。
 場所変えてちゃんと話せる場所が良いから」








頭、真っ白。
仕事とか全部吹っ飛んじゃった。


コイツはアタシが仲良しの子をアイツ呼ばわりしてる。
それだけでなくて、こーゆー仕事をしてるオンナを
『区別』してる。
そして、アタシも別の場所に連れ出そうとしている・・・・。

昨日、彼女と別れてすぐに!







同情を引くように、彼は続ける。



「ちぃちゃんも解るでしょ?やっぱりたまには
 開放的に遊びたいっていうかさ??
 アイツ違うんだよ。もうすでに結婚とか考えて
 たりしてさ。ちぃちゃんは結構サバサバしてるから
 そういうとこ解ってくれるでしょ?」



解るかボケ。
でも、言い返す気力はない。
曖昧な相槌を返すと彼は更に饒舌になる。


「ホントはちぃちゃんみたいな子の方が俺は
 好きなんだよ、ホントはね。
 でも、アイツ押し強くてさ。
 惚れてこられたら、ちょっとは男もその気になる
 からさぁ。最初はただ可愛いだけのイメージだったけど
 あんなしつこいと思わなくて困ってるんだよ。」


それ、笑いドコロ?
笑いのセンス全然ないね。
アタシに軍配上げて、プライドくすぐってどうにか
しようと思ってるって訳なのかな。


「で、今日なんだけど。どうかな。
 ホント俺困っててどうしようもなくって・・・・。
 ちぃちゃんが相談に乗って間に立ってくれると
 すごく助かるんだけど・・・・」



んで、アタシの上にも乗る訳ね。
オッケー。言いたい事は良く分かったよ。
ニッコリ笑って彼の耳元で囁く。









「外で会うと罰金100万だよ。今回の事は黙ってて
 あげるからとっとと帰ろうね。」






ギクッと顔を引きつらせる彼。
その表情を確認して更に続ける。




「金輪際アタシと彼女の前に姿見せないで。
 店にも来るな。じゃないとある事無い事言って、
 店の上の者いかせるよ。」






勿論上の人なんて知りません。
ただのピンサロ嬢にそんな権限ある訳ないじゃん。
でも、お客さんにそんな事わかる訳ありません。
そそくさと逃げるようにして帰って行きました。








その夜、アタシは彼女の家へ。



結局最初から彼は本気でなかった事。
徐々に金をせがまれるようになった事。
彼女が風俗嬢だと恥ずかしいといわれた事。
色んな事を話しました。










風俗嬢が彼女だと恥ずかしい・・・・・・






勿論あまり人に言える仕事じゃないけど・・・・・・






でも・・・・・・・






それだけは口にしちゃダメだよ・・・・・・・・


















その後すぐにAちゃんは店をやめ、
今では連絡も取っていません。
だけど、ふと思い出します。



こういう場所でも上手く行く人達もいる、
でも、そういう目的で近づいてくる人もいるんだと。

本番が出来ない店なら本番を。
本番が出来たらお金をかけずに出来る方法を。

それを求める人もいるんだと。









好意を寄せられる度、よぎる苦い思い出。
たとえお茶を飲むだけと言われても、
アタシは外に連れ出されたくない。