秋薔薇が美しい。垣根やフェンス沿いに蔓(つる)を伸ばし。さながら、ここは薔薇園か?何を「美しい」と思うかはその人の感性次第。「胡蝶蘭」「桜」「向日葵」「蒲公英(たんぽぽ)」いずれも「美しい」事に変わりはない。だが、薔薇は別格の様だ。各地では薔薇だけが盗まれる事件が多発していた。「花盗人(はなぬすびと)」が薔薇の引力に逆らえず、つい手に取ってしまう。「薔薇園」からも「園芸店」の店先からも。手入れの行き届いた「優雅な庭」からも。ローズ、君は「被害者」だ。その美しさ故、何人もの咎人(とがびと)を生み出してしまう。ローズ、君は人々の「所有欲」や「独占欲」の「犠牲者」だ。男も女も老いも若きも君を求め、争奪戦。君を手に入れた者は一輪挿しで弄び、花弁を熱い湯で煮出し「ローズティー」にするだろう。贅沢に君を引きちぎり、バスタブに浮かべ、その身体を埋める者も居るだろう。街を歩く時は手指に傷がある者、手袋を穿めた者に注意せよ。君の機嫌を損ねて怪我をしたのかもしれないから。野空(のぞら)の下で気高く咲いていた君は今や囚われの身。私が救いに行く頃は萎れて見る影もないだろう。「綺麗な薔薇には棘(とげ)があり、花の命は短くて……」改良された薔薇は匂わないが、原種の薔薇は鋭く匂い立つ。一重咲きから八重の花。花の色、千差万別。ただし、真青(まさお)の薔薇だけこの世に無き。ローズ、何も言うな。そこに居るだけで目に止まるから。幽閉を嘆くな。時間(とき)を持て余しているからといって、「花占い」などに現(うつつ)を抜かすな。

「ローズ、何色に染まりたい?やはり真紅か?正統派。桃色も捨てがたいぞ。君を誰にも渡せないのなら、黒く染まってみるか?オンリーワンになりたいのなら、紫はどうだろう。紫の薔薇。それも濃き紫。九十九本束ねてみる。その花言葉、永遠の愛。ローズ、君はなんて罪作りなんだ。先程までは被害者。今は僕の心を盗む容疑者だ。被害者ローズ、そして容疑者ローズ。」今日もあなたに幸あれ。続く。