「新宿信濃町観劇部日記」を書き始めてしばらく経った頃のこと。これを読んだ中高時代の親友からある忠告を受けた。

素人が背伸びしているように彼は感じたのかもしれない。12歳の頃から多感な時期を共に過ごした友だからこそ、基本「ええかっこしい」の私の性格を知ってのアドバイスだろうと思う。彼の批判には素直になれる。それ以来、プロの評論家或はプロ級っぽい人たちが敢えて書かないような、素人の目線を意識して自然体で書いてきたつもりだ。

ただ、昨年200を超える作品を観て、減ったとはいえ今年の前半も年間150の観劇ペースということ自体が、やはりまだ背伸びをしていたのかもしれないと今更思う。若いころから演劇を趣味にしていた訳ではない私にとって、まずは時間とカネと体力が続く限り劇場に通って、身体に作品を沁み込ませようと考えて二年余。もちろん、自らを追い込む目的ではなく、確かに観ていて面白くそして楽しい思いができたから通ったのだが、知らず知らずのうちに、スケジュールを埋めることや、素人風劇評というものを書くことを目的化していたのかもしれない。

改めて自らに問いかけてみる。ホントに面白かったのか、と。書いた内容に忖度がなかったか、と。

そんなことが脳裏をよぎったからといって、区切りをつけようと割り切った訳でもないのだが、この下半期は観劇の対象を絞ってみようと思い始めている。誰かを応援することはそれなりに続けたいとは思う。ただ、それもその人との距離感次第かな、とも。心の中で、それが誰かというのは決め始めている。

海の日の三連休。去年は6月下旬に梅雨が明けて、この時期は既に猛暑で熱中症リスクまで語られていた。ちょうどいい。連休に連続休暇を繋げて八ヶ岳で避暑を、と考えたのだが、その思惑はすっかり外れてしまった。東京も高原も、気温はさほど変わらない。21日の日曜朝に山を下り、東京の自宅に戻り、東中野と三茶に観劇に向かった。

ひみつまたたき、おためし公演「ぱくぱくばく」＠東中野バニラスタジオ　作・演出　林千大

戯曲リーディング「イザ・ぼくの運命のひと」＠シアタートラム　作　ヴォルフガング・ヘルンドルフ　上演台本　ロベルト・コアル　翻訳・演出　小山ゆうな　音楽・演奏　国広和毅

16時と18時開演。この二本を観れるのか。それが何とか奇跡的に間に合った。前者は夢のお話。後者はふしぎな少女の旅のお話。

この二本を比較の上題材として何かを書く人はいないだろう。ただ偶々だが何か共通点があった。夢と現実が行き来する物語はあまり得意ではない。それが正直な感想だ。子供の頃からファンタジーよりは歴史もののようなリアルなストーリーが好みだった。

再演されている「チック」のサイド・ストーリー的要素を持つイザの場合、ポストトークでチックのキャストも登壇し、二作品の関連性について語られたことから、何となく理解はできた。それよりも、土井ケイトという女優の魅力に引き込まれた自分がいた。亀田佳明の素晴らしさについては、ここで書くまでもない。

「ぱくぱくばく」というよくわからない題名が何を意味するか、それが徐々にわかってくる。そのプロセスは面白い。未完成の若い勢いもあった。宮沢賢治にインスパイアされたかなと思えるような場面も。でも次を観たいかと問われたら、よくわからないと答えるだろう。

いずれも一時間ほど、東中野が2000円で三茶は1500円。前者の価格はフェアだと思う。が後者のこの安さはなんだ。ポストトークの充実や、国広のギター演奏も考えれば倍いや三倍の価値はあると思う。その価格でも客席は埋まっただろう。

こういったギャップが面白いのかもしれないし、それが示す何かを考えるのも楽しい。自分で足を運んだからこそ実感できる。

参議院選挙は、いろいろあったが大きく言えば現状維持で終わった。政治に関して、演劇界ではアンチ安倍が主流で、まあそれも理解できる。ただ、私は、「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」的な流れで、尊敬する演劇人たちが「アベガー」族のような呟きや、RTをするのを見たくない。この数年観た作品のおかげで、これまで気付いていなかった、或は目を向けてこなかった価値観を認めることが出来る自分がいる。そんな作品を提供し、価値観の多様性を主張している人たちが、ここではレッテルを堂々と張っている。そんな風にも見え、残念でならない。

トランプから戦闘機を買う予算があれば、芸術に対する補助金を。そこかい。国を守れなければ、芸術も滅びるのに。

言論統制には反対だ。勿論。でも、この国の安全保障を脅かしているのは、体制維持のために言論統制をいとわない近隣の国々なんだ。

与党には反省が必要だと思う。でも、それを批判するだけで、現実性のある対策を示せない野党に支持が集まらないのは当たり前じゃないか。夢想かもしれないけど、どうせ夢想するなら山本太郎にかけてみようと彼に共感する有権者の気持ちはわかる。

投票率が50％を割った。争点があいまいだからとか言われているけど、実は魅力的な候補者がいないからじゃないか。私の場合、選挙区にはそういう人はいなかったが、比例区には応援したい人がいた。政治は劇場だ。劇場に通いたいと思える人が居れば、人は足を向ける。

俳優も政治家もその点は同じではないかと。Theatre of politicsという論文が政治学のゼミのテキストだった。そんなことを思い出した月曜日。

日記らしく -Theatre of politics