みっちゃんの惑星 (35) | 「HEROINE」著者遥伸也のブログ ~ファンタジーな日々~

みっちゃんの惑星 (35)


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すると山崎さんは急に顔をしかめて、じっと考え事を始めた。


「山崎さん、何か心当たりが?」


お姉さんがそう問いかけると、山崎さんは言った。


「いえ。それよりもどうもひっかかるんです。ガイランドルはテレビを通じて、皆にメッセージを流すつもりらしいが、それが目的なら別にブッダマルの神像など必要ないはずだ」


「でも、その神像に仕込まれている通信装置から、直接メッセージを皆に伝えたいんじゃないんでしょうか?」


私がそう答えると、山崎さんは「確かに」と言って頷き、そして続けた。


「しかし、ただメッセージを伝えることが目的なら、何も通信装置を使わなくても、奴なら可能なはずです。奴はプロフェッサーが発明した眼鏡を持っていた。ということは、星人たちの脳波パターンを記憶したマイクロチップがそこに仕込まれていることにも、当然気づいている。それを使えば、奴の能力なら簡単に、星人達にしかキャッチできない通信波を作り出すことができるはず。だからそれをテレビで流せば済むはずです」


「なるほど。言われてみればそうですね」


私はその話を聞いて確信した。

やはりガイランドルの真の狙いは、星人たちにメッセージを伝えることなどではない。

このフィギュアだ。

このフイギュアを手に入れることなのだと。


「確かにそうだわ。一刻も早くそのメッセージを皆に伝えたいと焦ってるんだったら、さっさと自分でメッセージを作って流せば済むことだものね」


お姉さんもそう言って頷いた。


「そうです。やはりこれは奴の罠だ。絶対にその神像を奴に渡してはだめです。絶対に」


すると今度は、瑞穂が顔をしかめて言った。


「でもそれだと万事休すね。日本中に散らばってる星人たちに、メッセージを伝える方法を別に考えないと」


、その時だった―

突然、ドアがゆっくりと開くと、スーツ姿の男が入ってきた。

私はその顔を見るや否や、驚きのあまりのけ反っていた。

否、私だけではない。

他の皆も、その顔を見て驚き、唖然としていた。

そんな私たちのことなど意にも介さず、男はそっとドアを閉めると、にたにたといやらしい笑みを私たちに向けた。

その時になって、私はようやく声を発した。


「しょ、所長……なぜここに?」


そう。

そこにいたのは山崎所長、否、山崎さんの偽物、クロノボットだったのだ。


「まったく、神楽坂君よ。相変わらず君も、決断力のない男だねぇ。うだうだあれやこれやと悩むばかりして、いい加減むかつくんだよ」


所長は私を睨みつけると、憎々しげにそう言い放った。

すると、それを見た山崎さんが、慌てて上半身を起こすと叫んだ。


「貴様っ、何しに来たんだっ?」


「決まってるだろ。そのフィギュア、否、神像とやらを頂きにきたのだ。全く世話の焼ける人間どもだよ。素直に渡しさえしてくれれば、こんな手荒なことをしなくて済んだものを」


所長は苦苦しい顔でそう言うと、チッと舌打ちをした。

そして、スーツの内ポケットに右手を乱暴に突っ込むと、サイレンサー付の銃をゆっくりと取り出した。


「く、くそう。やはりガイランドルの本当の狙いはフィギュアだったのか……」


私は悔しさのあまり、つい呟いていた。


「まあ、そういうこと。で、あんたらは知りすぎた。すまんが死んでもらう」


所長は淡々とそう言うと、まずは私に銃口を向けた。

私は突然のことで、ただただ呆然とするあまり、体をまったく動かすことができなかった。


どうしよう?


ようやく胸の中に焦りが芽生え、心の中でそう呟いた時―


「ウッキィィィー」


突然、山崎さんが奇声を上げた。

そしてベッドの上から、まるで猿のように軽快に飛び跳ねたかと思うと、次の瞬間、所長に飛びかかり、その右腕を掴んで銃を奪おうとしていた。

人間とは思えない、俊敏な動きだった。

しかし所長はびくともしなかった。

やはり山崎さんが言った通り、所長の体は機械だったのだ。

私はそれを見て確信した。

と次の瞬間、パンパンと、乾いた破裂音が二回響き渡った。

すると山崎さんが、苦悶の表情を浮かべ、腹を右手で押さえながら膝をついた。

そしてそのまま、床にうずくまってしまった。


「まったく、このケダモノ野郎が」


所長は、そんな倒れ込んだ山崎さんに向かって、吐き捨てるように言い放った。

そして今度はゆっくりと私に銃口を向けると、にやつきながら言った。


「お前はもうクビだとさ。そしてこの弾は、俺からの餞別だ」


私は緊張のあまり全身が硬直し、ずっと体を動かせずにいた。

窮地に追い込まれ、心は焦っているのに、体は死を受け入れている。

もう流れに任せるしかない。

焦りと諦めの狭間で、私はいつしか無の境地に陥っていた。

死ぬ時というのは、こんな感じなのかー

そう思った時だった。


突然、床に置いていた鞄が、小刻みに震えだしたのだ。


「ん?」


所長はその異変に気づき、今度は銃口を、その鞄に向けていた。


「やれ、やるんだっ」


すると突然、私は無意識のうちに、鞄に向かって叫んでいた。

なぜかは自分でも分からなかった。

ただ、鞄の中の神像が、何かをしてくれるー

胸の奥底に根付いていたそんな確信が、咄嗟に私にそうさせたのだ。

すると思った通り、不思議なことが起きた。

今度は、鞄が勢いよく飛び跳ねると、所長の右腕に激突したのだ。


「うぎゃっ」


所長は衝撃を受け、反動で銃を床に落とした。

そして右腕を庇うように、がくりと膝を落とした。

すると今度は、鞄は私めがけて飛び跳ねてきた。

私は咄嗟に、鞄を避けようと体をかがめていた。

しかし鞄は、私の体までには届かず、ちょうど足元へと落下した。

私はそっと身をかがめ、足元の鞄を恐る恐る手に取ると、中を開けて、右手を入れた。

そして神像を掴むと、ゆっくりと取り出した。

見ると、神像は思った通り、赤く輝いていた。

所長はひざまずいたまま、そんな私の姿を見て呟いた。


「やはりお前は……シントだったのか」


(つづく)



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