むかし大阪の大東市に転勤で勤務していた頃、本屋で万引き犯に出くわしたことがある。店のいつもは朗らかな店主、おばちゃんが珍しく激怒していたのには正直、驚いた。こちらにも聞こえるような大声で、まだ小学生のような子供を叱っていた。
子供は万引き犯の常習者らしく、おばちゃんはこの前も、あんたが来たあとに、まんがが数冊なくなっていたと言った。私はそのとき、子供の本の支払いを肩代わりして、子供におばちゃんに謝りなさい、もう二度とこんなことしたらあかんで、そう言おうとしてためらった。
おばちゃんの怒りが激しすぎて、とうとうその場に割って入ることができなかった。しばらくして私は離婚になって、大東市をあとにしたが、そのときの少年が気になって仕方がなかった。
少年とは面識がなかったが、あのとき、ひとこと少年に言いたかったなと思った。あのときの少年はどうしたのかなって今になって思う。少年を救えなかったことが、今は心残りだ。