試合開始まであと10分、僕は信濃町駅改札を出て、駅前歩道橋を駆け上がり神宮第二球場を目指した。こうまでぎりぎりになってしまったのには理由がある。岩本町から秋葉原に乗り換える路上で、朝マックが食べたい衝動にかられた僕は、店に入り試合開始に間に合うか間に合わないかの瀬戸際を選んでしまったのだ。
特にアイスコーヒーはおいしかった。

都立雪谷高校が甲子園予選の東東京大会5回戦に挑んでいる。
対戦は、次男が7年前の同じ時期に対戦して破れた相手だ。
一塁側内野スタンドは、雪谷のチームカラーである赤が埋め尽くしている。
最後列の通路側にある柵の前に立っていられるスペースがあった。学生時代から最後列の端というのは僕にとって最も落ち着ける空間である。ベストポジションだ。
ヒットが出ると声援が沸き、点が入るとボルテーシは最高潮となる。
相手方チームは、自分が勤務している大学の付属高校であるだけに、応援する心境は少々複雑だ。

結果は5回コールド勝ちだった。
7年前の無念を晴らした形になった。次男も一塁側のどこかで見ているはずだ。
敗戦したチームの気持ちは痛いほどわかる。
7年前の夏、敗退した次男は、試合の翌日使っていたユニホームを全てたたんでバッグに詰め込んで部屋を出ていった。バッグを背にして、後輩に全てを譲るためにトボトボと駅に向かって歩く次男の姿を、僕はベランダから眺めていた。本当に野球が終わっちゃう・・・追い続けた夢が完全に消えて、改めて現実を知らされた瞬間だった。
 
でも、7年の時を超えて、次男の後輩達が夢を受け継いでくれていた。
喜びも悲しみも全て詰まっているのが夢だから。
夏の始まり、夢の途中、僕はかぶっていた雪谷の野球帽をかぶり直して球場を出た。