思索というよりも妄想のようなものと言えるかもしれませんが、このカテゴリーでお願いします。
「胸が痛いわ。」ペニンナは思わず声に出して呟いてしまった。胸の芯がきゅっと縮むような感じがした。目を瞑ると、父が縁談を持って来た時の玄関の情景が思い出された。
ペニンナは自分が結婚適齢期になれば父が結婚を整えてくることはわかっていた。漠然と頼りになる夫ができて、一人前の女に、妻になるのだと思っていた。レビ人の妻になるのだと伝えられた時は、それなりに誇りも感じ、身の引き締まるような気がした。しかし、その次に告げられたことに心が暗くなった。その人には既に妻がいるというのだった。自分の周りにも二人目の妻になった女はいないわけではなかったが、どうせなら最初の妻の地位が欲しかった。
婚礼の時には、最初の妻であるハンナが寂しそうにしているのを見て、少しばかりの優越感があった。ハンナは石女だったから、自分が選ばれたのは、きっと子宝に恵まれるだろうという期待をされてのことだというのが嬉しかった。しかし、結婚生活が始まると、ペニンナの心は沈んだ。夫エルカナは明らかにハンナへの愛情が深かった。間もなく身ごもり、家族に大切にされたので、自分の家族の中での地位は揺るがないという自信が湧いてきた。それなのに、初めて年に一度の例祭を祝うためにシロに出かけた日の晩、かっと頭に血が上るのを感じることになった。宿で食卓につくと、夫エルカナはハンナには特別な分を用意させていた。私は子孫を残すための道具でしかないとでもいうのか。平静を装いはしたが、怒りが深く胸に沈んでいくような気がした。ハンナの方を盗み見ると、彼女が悲しんでいるのが見て取れた。エルカナが用意させた食卓の特別の分が、むしろ「お前には子がない」という事実を突きつけているように思えるのだろう。そう心中を推察すると、少し溜飲が下がるような気がした。
年が進むにつれて、ペニンナの怒りはますます募っていった。毎年のように子どもが生まれたのに、エルカナの心はいつもハンナのものだった。「ヤコブの愛情を妹のラケルと激しく争ったレアの気持ちがよくわかるわ。私も負けないんだから。」例祭でシロに行く時には、ペニンナはハンナに子どもがないことを思い知らせ、彼女が泣くのを見て憂さを晴らした。
「気に入らないわ。」その年の例祭では、ひときわ意地悪くハンナに当たった。泣きながら宿から出て行くハンナを見て満足していたのに、宮から帰って来た彼女は晴れ晴れとした顔をしていた。間もなくハンナは身ごもって男の子を生んだ。その後も、三人の息子と二人の娘がハンナに生まれた。もう自分には用がないかのような気がして不快な思いがペニンナの心に淀んだ。長男の祝福は自分の産んだ子どもが受け継ぐのだということが、ペニンナの気持ちを支えていた。
ハンナの初児であったサムエルがバル・ミツバを迎えると、エルカナは宴会を催した。厳粛で喜ばしいことであったが、ペニンナの心は厚いカーテンで覆われているようだった。宴会自体はサムエルの兄たちの時と変わらないものではあったが、人々はサムエルを特別な目で見ていた。彼が主の預言者に任じられたことをイスラエル全土が認めるようになっていた。ペニンナの重い心は、敗北感であったかもしれない。
自分の部屋に戻ったペニンナは、慣れ親しんだトーラーのことを思い出していた。バラク王の呪いを神は祝福に変えられた。ペニンナは心の中で神に思いを打ち明けた。「主よ、このはしためを憐れんでください。私はハンナを苦しめました。でも、私の行いは彼女を祈りに駆り立てて、あなたの祝福につながったのではありませんか。私の夫エルカナの私への思いはわずかです。この失望、この悲しみをあなたはご存知です。あなたに顧みていただく以外に私の慰めはありません。どうか私の悲しみを喜びに変えてください。」ペニンナの唇は震え、かたくつぶった目からはとめどなく涙が流れていた。
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