最終話



今年になっても、私の仕事は一向にトンネルを抜ける気配がしなかった
。私もストレスで酒の量も増え、精神的にも不安定だったと思う。「アイちゃん、誕生日プレゼントは、何がいい?」「何もいらない。」「アコ、セントマネーもいらない。」その時は、機嫌が悪いだけだと思っていた。


何回かいつ頃行くと言っては、反故にしてアイを怒らせた。アイは、「アコもう29だよ。お婆さんになっちゃうよ。」と、私に訴えた
。アイに会いたい。しかし、仕事が不安定な状態でフィリピンに飛べば、取り返しのつかないことになると考えた。アイと日本での生活の狭間で悩んでいた。


そんなある日、「ハニー、話がある。」「アコ、もう待つの疲れたよ。新しい恋人ができた。フィリピン人です。」呆然としながらも、不思議と怒りの感情は湧いてこなかった。




私は一息置いてから、「アイちゃん、悪いのは全部俺だ。本当に長い間待たせたもんな。あなたが決めたことだから、俺には何も言えないよ。」アイは泣きながら、「ハニー、許して、許してください。」「アイちゃん、許すも何も俺が悪いんだから。もう泣かないで。」私はアイの泣き声を聞くのが辛くて、そのまま電話を切った。




こうしてアイと私の5年間は、終わりを告げたのだった。




最後の電話では、動揺して感謝の言葉が言えなかった。ここに最後に言いたかったメッセージを書きたいと思う。




アイちゃん、こんな駄目な男についてきてくれて、本当にありがとう。あなたと出会ってからのフィリピンは本当に楽しかった。最初のデートの日に1人でホテルに来てくれたアイちゃん、ホットクリスマスを一緒に過ごしてくれたアイちゃん、あなたは間違いなく今までの俺の人生で最良のパートナーだった。俺が望むのはただ一つ、幸せになってほしい。さようなら、俺の愛したアイちゃん。





彼女は数回危険のシグナルを出していたと思う。鈍感な私はそれにきづかなかった。私は神を信じないが、あのマニラでの遊びに罰があたったのかもしれない。今となっては真実はわからない。全ては私の力不足であり、彼女の人生を遠回りさせてしまった。今はただ彼女の幸せを祈るのみである。




このブログを彼女に捧ぐ





終了



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翳りと別れ編



ある日、キッチンでアイと両親が、難しい顔で話し合っていた。どうしたの?と訊くと、ビコールの叔父さんが、アイの購入したして預けていた牛を、勝手に売ったそうである。



こういう時、日本人の私には解決法が見つからない。フィリピン人にはフィリピン人の思考があるし、日本人の私の考えを押し付けるのは、間違いだと思う。ただ一つ分かることは、売ったものは返らないし、お金も戻ってこないだろう。


アイは悔しくて泣きながら、手紙を書いていたが、テキストの返信も来ない相手に対しては、無駄に思えてならなかった。結局その日はアイは一日中泣いていたのだった。いつもはのんびり、まったりした滞在なのだが、この時はいろいろな問題があり、リラックスするには刺激が強すぎたようだ。



なんとなくぎくしゃくした雰囲気の中、私の帰国日が迫っていた。アイのことは愛している。しかし、アイを取り巻く環境は、間違いなく変化していったのだ。私は、帰国日に大使館から書類を受けとったのだった。



帰国してからは、仕事と家だけの日々が続いていた。ちょうど友人から纏まった仕事を貰い、経済的に立ち直りつつあった。アイへの仕送りをしても多少余裕が出てきた。



本当はこの部分は書きたくなかったのだが、記録として残すために、真実をありのまま書くことにする。普通ならアイに会いに行くところを、愚かにもマニラに夜遊びに出掛けてしまったのだ。



トライシクルの支払いや仕送り、仕事のストレス、全て言い訳であるが、一週間マニラで遊びまくった。アイには病院で仕事のため、携帯の電源を入れられないと、嘘をついた。



それから私は転落の途を辿るのである。病院関係の定期の仕事がスカだったり、長期の仕事がトラブルで収益が落ち込んだり、5年契約の仕事が1年以上ズレ込んだりと、フィリピンに行くどころではなくなっていた。



どうにか仕送りと電話連絡はしていたものの、最後の渡比2年半が経過しようとしていた。最初の内は、「ハニー、今度いつ来るの?」だったのが、「アコのこといらないだったら、はっきり言って。」に、変わっていったのだった。



続く


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翳りと別れ編



朝起きると隣に寝ているアイの横顔を眺めながら、早くきちんと手続きをしなければと、考えていた。手狭な家も引っ越したいし、アイにも楽な生活をさせてあげたい。日本の自分の現状を考えると、残念だが私にはその力はない。



キッチンに行き、1人でビールをのむ。いつもコーヒーを入れてくれたロラは、ビコールに帰ってしまった。私は1人朝食を作り始めたのだった。今日は、アイと電気屋でテレビとコンロを買うことになっていた。



アイがタレント時代に買った電化製品は、それぞれガタがきていたのだ。新しいテレビが届くと、ファミリーが大騒ぎだった。昼食の時もテレビの話題で盛り上がっていた。買って良かったと思った。


食後、アイ達が洗濯するのを眺めながら、ぼんやりと煙草を吸っていた。その視界にトライシクルが入ってきた。ん?待てよ、アイのファミリーは誰もドライビングライセンスは持ってないはずだ。それに、商売道具を何日も貸すだろうか?



「アイちゃん、ちょっと話がある。」と、アイの部屋に誘った。「アイちゃん、あのトライシクルは誰の?」「何日も借りてるって、おかしくないか?」



観念したのか、アイが口を開いた。「ハニーごめんなさい。安かったから、買うした。」「えー!で、ペラは払ったの?」「まだです。」



私はしまったと思った。ウータンビジネスで少し金回りがよくなり、ファミリーの金銭感覚がズレ出したのだろう。私がお金を持っているという誤解もしているようだ。



アイの父親が私のところに来て、涙を流しながら、何度もアイムソーリーを繰り返したのだった。母親のウータンやトライシクルの購入は、ファミリーの意向かアイも承知の上かはわからない。ただ少しずつ歯車がズレ出したことに、変わりはない。



今までが、アイとファミリーが出来すぎだったと思うし、それまで付き合ったババエからは、容赦ない要求をされていたのも事実だった。ただ、日本での私の仕事が下降線を辿っている以上、不安な気持ちは隠せなかった。



結局トライシクルの代金は、私が日本から送ることになった。せめて電化製品を買う前に、打ち明けて欲しかったものだ。アイとの仲は相変わらずだったが、私はアイのファミリーに少なからず警戒心を持つようになった。



続く




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