今回紹介する作品は
1961年(昭和36年)新東宝
「俺は都会の山男」
小野田嘉幹監督
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あらすじ
正面から事に当る正義漢である朝日奈七郎(吉田輝雄)は、そういう性格なのでなかなか就職口が決まらない。ある時偶然知り合ったスリの一平(浅見比呂志)の口車に乗って「喧嘩屋商会」なる珍商売を始める。

吉田輝雄さん主演のコメディ映画ですが、劇中のほとんどがテンション高く推移しているので、観ていて疲れる映画でもあります(笑)

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朝日奈七郎(吉田輝雄)
今回の吉田さんは、宇津井健さんの様な猪突猛進キャラです。
そして劇中やたらと相手を殴ります。殴る回数は史上ナンバーワンかもしれません。
それに7人の女性にモテてしまうのです。

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南一平(浅見比呂志)
「セクシー地帯」の三原葉子さんバリの調子のいいスリです。
吉田さんは他の人の言う事は全然聞かないのに、浅見さんには従ってしまうのですね。

そして、この作品にはコロムビア・トップ、ライト、江戸家猫八、一竜斎貞鳳、三遊亭小金馬と芸人さんが多数出演していますが、今回は、他ではあまり伝えられない新東宝俳優さんを特に詳しく紹介します。

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山代美弥子(三条魔子)
五井産業の秘書で吉田さんの恋人です。
五井産業の孫娘の友人(万里昌代)のコネで就職をあっせんするが、吉田さんがあの性格なのでご破算になり、その事でいつも喧嘩しています。
吉田さんと三条さんの恋人設定はこれで三度目ですが、石井監督が手掛けない限りは、三原さんよりは似合っていますね。

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五井ルリ子(万里昌代)
五井産業の孫娘。以前から三条さんが吉田さんの恋人なのを知っていましたが、いつの間にか吉田さんに夢中になります。

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宮本ミキ(星輝美)
白タクの運ちゃんだが、乗車した吉田さんに一目惚れします。
輝美さんって、そういう役はあまり似合わないと思うんだけど、カミナリ族とか多いですね。
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運転する輝美さんと、乗客の吉田さんのツーショット

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赤倉光江(山村邦子)
浅見さんの済むアパートの大家
吉田さんは若い娘だけではなく、おばちゃんにも惚れられてしまいます(笑)

山村邦子さんは現代劇・時代劇問わずオールマイティに活躍しましたが、「黒線地帯」での奇妙なホステス役とか、「海女の化物屋敷」で奇声を上げる未亡人とか、突拍子もない役が印象的です。

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大川銀子(宮田文子)
バーのマダムで、地上げ屋被害の相談で吉田さんと知り合い惚れてしまいます。

宮田文子さんは俳優座四期生で、宇津井さんと同期。
母親役が得意で、代表作の「亡霊怪猫屋敷」では、何と5歳年上の中村竜三郎さんの母親役を演じております。
老けて見えますが当時27歳の宮田さんです。

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春千代(橘恵子)
吉田さんと対立する地上げ屋社長の情婦だったが、吉田さんに会った途端に寝返ってしまう。

橘恵子さんは新東宝末期に、多数の作品で助演しました。
演技の器用な方で、新東宝が倒産しても他社で十分に活躍出来るのに残念だなと思っていましたが、最近になって歌手になっていた事が分かりました。

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町田エリ(高城美佐)
週刊天国の記者。こちらも地上げ屋被害の相談で吉田さんと知り合い惚れてしまいます。

高城美佐さんは新東宝末期にデビューした最もキャリアの浅い方で、演技がイマイチな真面目な役が多かったのですが、このツンデレキャラで確変しましたね。
吉田さんに惚れる7人の中で一番良い演技をしていたと思います。

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小野田嘉幹監督は妻の三ツ矢歌子さんを優遇する事で有名ですが、今回は週刊天国の表紙で登場。

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週刊天国・中川編集長(川部修詩)
一応編集長ですが、実質高城美佐さんに牛耳られています。

川部修詩さんはキザな役や、嫌味な役が多かったのですが、こういうコメディチックな役が似合うとは思いませんでした。
因みに川部さんは、俳優を辞めた後、実際に業界紙の編集長になっています。

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地上げ屋社長(沢井三郎)
ヤクザだが、東京オリンピックに向けての土地ブームに便乗して地上げ屋になる。
吉田さんの喧嘩商会と対立する一人です。

沢井さんは、新東宝で最も活躍した助演男優の一人ですが、キャリアも豊富な方です。
外見上そうは見えませんでしたが、以外と年齢はいっていてアラカンさんの一つ下でした。

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小松川三次(並木一路)
後に沢井さんを配下にした右翼団体の幹部です。
右翼団体の代表(宇田勝哉)がいますが、実質取り仕切っています。

並木一路さんはこういう強面な役が上手いのですが、元々は漫才師だったのです。
しかし、並木さんは酒乱で有名で、酒を飲むと女湯に飛び込んでいくそうです。

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丹波哲郎さんが警官でチョイ役出演
丹波さんは、大蔵社長と喧嘩別れして新東宝を去りましたが、「女奴隷船」に続いて出演しました。
いずれの作品も小野田嘉幹監督でしたので、特別親しかったのでしょうかね?

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最後に、裁判長と書記役で出演した、由利徹さんと南利明さん。
この二人はいろんな会社でショートリリーフをやっていますが、新東宝が最初なのです。
しかも、脱線トリオで主演作もありました。

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結局、右翼団体を潰した吉田さんは、予想通り7人から三条さんを取っておしまい。
吉田さんが女の子と手をつないで走るシーンなんて貴重ですね。

あとがき
冒頭にも書きましたが、作品のテンションがずっと高いので、観ていて疲れてしまいます。
そういう所が喜劇映画が苦手な小野田嘉幹監督の問題点でしょうか。

でも、東京オリンピックに伴う地上げとか、池田首相批判とか、当時の風刺は効いているので良い点もあります。

個人的には、高城美佐さんが凄く良かったので、新東宝倒産でそのまま引退してしまったのが残念です。