今回紹介する作品は
1960年(昭和35年)新東宝
「黄線地帯」
石井輝男監督



あらすじ
悪人は殺さない事を信条にしていた殺し屋の衆木一広(天知茂)は、依頼人に騙されて善人の神戸税関長を射殺してしまう。

新東宝時代の石井監督の代表作です。



真山俊夫(吉田輝雄)
新聞記者の吉田さんは、神戸にある外国人向けの売春組織(イエローライン)を取材中、仕事で神戸に向かう予定の彼女(三原葉子)が行方不明になり、単身で神戸に乗込みます。

吉田さんのキャラは、二枚目だけども少し頼りない。
石井監督が思い描く吉田さんの理想像が、早くもこの作品で完成しています。
吉田さんが神戸で人々に翻弄されるのが見所!



衆木一広(天知茂)
孤児院出身の殺し屋だが、冒頭に書いた様に「悪人は殺さない」事を信条にしていた。
一応の主役は吉田さんですが、どうみても天知さんがダークヒーロー的な主役と言っていいでしょう。

渡辺宙明さんの暗く単調な音楽が、天知さんのニヒルさを引き立たせています。



小月ルミ(三原葉子)
ダンサーで吉田さんの恋人ですが、東京駅前で天知さんに拉致され、ずっと行動を共にします。
吉田さんの恋人と言っても、二人が出会うのはラストシーンの数分間だけなんです。
拉致されたといえど、キャラは他の「地帯シリーズ」の三原さんと同じで、あっけらかんとしています。



神戸へ向かう急行「銀河」車内の二人
このシーンは新東宝の撮影でいつも使用する列車内のセットですが、カラー映像はこれが唯一と思われます。



神戸駅に到着したEF58牽引急行「銀河」と言いたいのですが、実は東京駅のホームです。
なので、この列車が「銀河」なのかどうか分かりません。
「黄線地帯」は神戸が舞台ですが、このシーンを含め、神戸ロケは一切行っていません。

※神戸駅に到着したEF58牽引急行「銀河」(本物)は次回のブログで紹介します。



桂弓子(三条魔子)
神戸の神港海運のタイピストだが、帰宅途中でイエローラインの連中に拉致され、大ボスの女にされそうになります。
三条さんは、これが新東宝で唯一のカラー作品なのに、あまり綺麗に撮ってくれていません。
正面からの映像は殆ど無いし、あっても変な顔に写ってすし、折角の美人なのに、ここが一番不満です。

そして、石井監督作品に初登場の「中川組」の二人


沼田曜一さんが新聞社デスク役で出演
僅かの出番でしたが、沼田さんらしい味のある演技でした。



若杉嘉津子さんが、天知さん達が宿泊するホテル「クォーターマスター」のマダム役で出演
何ともいかがわしい役で、若杉さんにこんな役をさせるとは!



ホテル「クォーターマスター」の室内
神戸のカスバにある、胡散臭いホテルですが、異国情緒ある内装に仕上げていますね。



神戸ロケを行わず、カラー作品以外は徹底的にケチケチ路線にしようとした会社側でしたが、それに不満な現場スタッフが決起し、予算を大幅にオーバーして見事なカスバのセットを作りました。

もし、これが平凡なセットならば、「黄線地帯」はここまで語り継がれなかったでしょう。



ホテル「クォーターマスター」室内の窓から、雨のカスバを眺める二人
これが日本映画とは思えない程の異国情緒のある光景ですね。



これが最後の石井監督作品になった瀬戸麗子さんは、吉田さんを誘うカスバの娼婦役で出演



そして、ホテル「クォーターマスター」にたむろする謎の女役が扇町京子さん。
何とも雰囲気のある方で、「黄線地帯」で一番光っていたのは、この人かもしれません。



ミイラのムーア(スーザン・ケネディ)
イエローラインの娼婦役ですが、石井監督はお遊びのつもりだったのか、白人女性に黒塗りをして黒人女性として登場させます。
しかし、スーザン・ケネディさんが味のある方で、黄線地帯の雰囲気を壊していません。



イエローラインの責任者・阿川(大友純)
天知さんを騙した張本人です。
蓄膿症なのか、何時も鼻に薬を入れています。
こんな厳つい顔ですが、女性には優しい一面もありました。



イエローラインの黒幕が慈善家の松平義秀(中村虎彦)
彼が三条さんを自分の女にしようとしました。
中村さんは前年まで中村彰として活動していまして、彼こそ日本初の東大卒俳優です。



最後の写真は、中村さんの邸宅で天知さんが中村さんと大友さんを射殺し、怯える三条さんと三原さん。

あとがき
「黄線地帯」は基本的に「黒線地帯」と演出は変わらないのですが、宙明さんの音楽や、見事なカスバのセット、中川組の俳優を起用等が相乗効果で見事な作品に仕上がったと思います。

神戸の人間なので、関西弁を話すのが鳴門洋二さんだけなのが不満ですが、舞台を神戸と考えず、無国籍の無法地帯と考えれば良いかな…