今回紹介する作品は
1960年(昭和35年)新東宝
「黒線地帯」
石井輝男監督



あらすじ
秘密売春組織を追っていたトップ屋の町田広二(天知茂)は、組織の罠にはまり、売春婦殺しの濡れ衣を着せられてしまう。

新東宝「地帯(ライン)シリーズ」第二弾です。
主役が宇津井さんから天知さんへ交代したので、内容が、よりいかがわしい方向へシフトしています。
そして、石井監督が脚本に加わったからでしょうか、「くさいセリフ」が連発する作品になっています。



町田広二(天知茂)
組織の女(瀬戸麗子)を追跡する途中、秘密組織の連中に騙されたのも知らずに、連れ込み宿にのこのこ付いて行き、そこで眠り薬入りの水を飲まされ、気がついたら同じベッドに絞殺死体の女(瀬戸麗子)が横たわっていた。

始めは冴えないトップ屋の天知さん、組織に嵌められた時は激昂しましたが、追跡中二人の女性にモテてしまいます。

天知さんはスターになるのに手間取りましたが、実は仲間内の女優たちの間では一番人気だったのです。
しかし、会社の上層部は天知さんを認ないので出世が遅れたのです。
女優さんの目の方が正しかった訳ですね。



麻耶(三原葉子)
秘密組織の麻薬の運び屋だったが、天知さんが好きになり協力することになります。
色っぽいけど、若干脳天気で可愛いキャラが「地帯シリーズ」の三原葉子さんの定番です。



美沙子(三ツ矢歌子)
人形教室に通う高校生。しかし人形教室こそ秘密組織のカモフラージュで、知らずに麻薬の運び屋をしていたのです。
偶然天知さんと遭遇し、歌子さんの方が「マンハント」します。
実年齢が23歳の歌子さんが高校生なのは、どうなのかなと思いますが、石井監督のゴリ押しなのでしょうか。
しかし、この年に歌子さんは小野田嘉幹監督と結婚します。
そういう理由からか、黒線地帯が最後の石井監督作品出演となりました。



鳥井五郎(細川俊夫)
新聞記者で天知さんのライバル。
動かぬ証拠で自首を進めますが、天知さんの熱意に打たれて2日の猶予を与えます。
新東宝時代の細川さんは悪役か嫌味な役ばかりなんですが、「地帯シリーズ」ではいい人を演じます。



大沼麗子(瀬戸麗子)
パリ座の踊り子だが、実は秘密組織の売春婦でした。
清純派の瀬戸さんなのに、「地帯シリーズ」ではこんな役ばかりです。石井監督酷すぎる(泣)
しかも台詞は「あっ!」だけ、クレジットが出る所は逃げるシーンで、あとは死体でした(泣)



佐野兼子(魚住純子)
瀬戸さんを追う天知さんを呼び止めた占い師だが、実は天知さんを陥れる秘密組織の人間で薬中でした。
秘密組織には魚住さん以外に、吉田昌代さんや城実穂さん等が居て、女性が多いのが特徴です。
魚住さんのミステリアスな占い師役は良かったですが、その後天知さんに見つかり引っ叩かれた挙句、薬の禁断症状で苦しみます。



サブ(鳴門洋二)
秘密組織の人間だが、普段はポン引きです。
鳴門さんのポン引き役本当に上手いです。



夜の横浜を歩く天知さんと三原さん。
おどおどしている天知さんに、「ハマではこの方が自然なのよ」としなだれかかる三原さん。
しかし、三原さんはバスに接触して怪我をしてしまいます。



一人で調べる事になった天知さんだが、その後のストーリーは、さながら当時の風俗が楽しめる展開に…
先ずは当時あった「海軍キャバレー」
ホステス役は水上恵子さんで、ビールの事を「魚雷」と名付けていました。



いかがわしそうなキャバレーの女(山村邦子)
何とも言えない、いかがわしい雰囲気が最高!
ただ、口がきけないので、天知さんは「オシパン」と呼びました。



オカマバーのゲーボーイ(浅見比呂志)
石井監督は売り出し中の二枚目俳優にこんな事までさせます。



そして秘密組織のボス橘祐吉(大友純)
大友さんは後半に少し登場するだけですが、石井監督は大友さんをアップで写し、強烈なインパクトを残します。
大友さんへの天知さんのセリフが強烈!
「女たちの生き血を吸って豚の様に太っている男」
「その蛭のようなヌメヌメとした唇」
そして大友さんを叩きのめします。



殺し屋ジョー(宗方祐二)
殺し屋ジョーはボスを射殺し、組織を乗っ取ります。
今回の宗方さんは「猛吹雪の死闘」とは違ってかなりクールですね。



臨港線の貨車で、天知さんと宗方さんが対決するシーンは迫力満点です。

事件が解決したが、三原さんは刑務所に行く事になります。
三原さんの最後のセリフがまた良い!
天知さんに「あなたってチットも二枚目じゃない、でも死ぬまで一緒に暮らしたい顔ね」
「じゃ網走ホテル行ってこようかな」


あとがき
この当時の石井監督作品は、いかがわしさの中にお洒落な雰囲気がブレンドされて良いんですね。
晩年はいかがわしさだけになってしまうのですが。

そして渡辺宙明さんの音楽が最高!新東宝の「宙明サウンド」では「黒線地帯」の音楽が一番好きです。

前回から石井輝男監督の新東宝作品ですが、しばらく続きます。