数年ぶりに、君に出会った。
君は、あたしの知らない彼女を連れて、あたしは、君の知らない彼氏を連れて。
同じ街に住んでいながら、今まで会わないのが不思議だった。
こんな狭い街なのに、あたしたちは手を離したあの日から、ずっとずっとすれ違って、違う世界を生きてきた。
それが今、嘘みたいに一致した。
手の届く距離に、君がいる。
「久しぶり」
たっぷりな時間見つめ合って、やっと君の唇が動いた。
「うん、久しぶり」
やっとのことで、あたしも答えた。
今まで経験したこともない空気が、あたしたちの間を流れる。
君と彼女の間。
あたしと彼氏の間。
そして、君とあたしの間に。
あたしたちは、それ以上言葉を交わすこともなく、でも瞳だけは逸らせずに、ずっと見つめ合っていた。
ふたりの時間が、甦ったみたいだった。
あたしたちが、昔のあたしたちのところに、タイムスリップしたみたいに。
手を繋ぐだけで、頬を染めたあの頃。
やさしく触れた君の唇。
震える指先が触れた乳房も、愛を知った痛みも、全部全部、君があたしにくれた幸せ。
あの頃と何も変わらないんだと、君の瞳が呟いた。
うん、あたしも。
あたしも何も変わらない。
あたしたちは、それぞれに歩き出した。
訝しげな顔をする、パートナーを連れたまま。
あたしたちは、思い出していた。
あの時最後に交わした約束を。
「あの、小さな町のホテルで」
あたしたちは今夜、ふたりで行った小さな町で、新たな旅路につくだろう。
心から愛する人と、永遠に離れないと誓って。
お題配布元:中途半端な言葉
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