女子CL決勝。リヨン対ポツダムを現地観戦しました。


なでしこ日本代表FW永里優季は、直前で負傷のためベンチ外に。


しかし、非常にハイクオリティな試合でした。試合そのものが、フットボール的にハイレベル。戦術、フットボールの本質、本能が入り交ざった好ゲームでしたね。





 “戦術の”リヨン  対 “動物的な”ポツダム


試合は、リヨンがボールを支配する展開で進む。


選手個々の能力の高さと、洗練された戦術で、リヨンはボールを圧倒的に支配し、ポツダム陣地でサッカーを展開する。



<選手個々の能力の高さ>


4-2-3-1で挑んだリヨン。


前線の3枚。⑫、⑧、⑩の能力が、ずば抜けていた。



明らかに、質の違いを見せつけたのが、右WG。右サイドを主戦場に、ポツダムの左サイドを切り裂き続けた。



しかし、本当のキーマンはCFW⑧だった。同選手のボールの受ける位置、スペースの使い方は、ポツダムのCBを翻弄し、ゴール前の危険なポイントを「無意識的に空けてしまう」効果を生み出した。



左WG⑩のドリブルも厄介だった。しかし、外から見れば、ポツダム右SB⑮が、前半途中からよく止めていたように思う。


ただ、ポツダム⑮は、普段はレギュラーではない。FW⑰永里が負傷欠場のため、起用された選手だった。



その不安が、ポツダムCB④の無用なカバーリングを生んでしまったのだろう。信頼が幾分、欠如していたような印象を受けた。カバーに行くタイミングが、“早すぎる”。そこをリヨン⑧が常に狙っていたし、その空いたバイタルエリアでのミドルシュートは、徐々にポツダムDF陣を退かせてしまった




<カバーリングとは、然るべきタイミングで、然るべき応対によって為されなければならない>



これを、学ばされた試合だった。



カバーを、すれば良いというものではない。釣り出されすぎて、結果空いてしまったスペースに、タイミング良くボールが入ってしまえば、決定的なピンチを招くことがあり得る。ポツダムDF陣は、そのジレンマに襲われていた。




<洗練された戦術>


昨年も同様のカードだった女子CLファイナル。PK戦の末に、ビッグイヤーを掲げたのは、ポツダムだった。


リヨンは、昨年の雪辱を晴らすべく、かなり分析と研究をしてきているように思えた。


まず、DFライン4枚に、いずれもCB型の選手を配置。



右SB③は、完全にヘディンガー型。これは、FCバルセロナが、SBにプジョルを配置するような布陣と同じ効果をもたらす。


リヨンは、両SBの上がりを禁じた。


左SB⑱は、上がるにしても、ビルドアップのサポートのみ。ボランチのパスコースを作り、WGの給水所となる。「給水所」とは、WGが困ったときに、ボールを下げるパスコースに常に立っている、という意味だ。


右SB③は、完全に右WGに「いってらっしゃい」攻撃を託した。ほぼ、ノーサポート。いや、“スペースを与える”というサポートを、常にしていたと言える。



リヨンの、チームの共通意識は、ずば抜けていた。


誰もが、“戦術的なミス”を、ほとんど冒すことなく、ハイクオリティなゲームを実践した。






<動物的なポツダム>



対するポツダムは、動物的なチームだった。


戦術という戦術は、それほど多く存在していない印象。


ただ、こういったチームの強さは、「個々の選手の特徴が嵌ると、破壊的な強さを生み出す」というメリットを含む場合が多い。


つまり、極端に言えば、ポツダムは、“覇権を託された”選手との心中を余儀なくされるチーム、ということだ。



規律が多く存在しないチームは、自由が許される分、爆発力と破壊力を持ち合わせる。


監督も、選手も、知らないところで信じられない強さを発揮したりする。


潜在意識の引き出しに懸けたサッカー。





<覇権>


こういったチームの場合、“覇権”がどこにあるかを見極めることが肝要だ。


ポツダムは、FW⑩バイラマイに覇権を託した。


おそらく、ポツダムは、ここ2~3年、バイラマイ中心のチームで勝ってきたのだろう。


しかし、現在のポツダムは、“バイラマイ依存症”に陥らなかった。いや、陥ることができなかった。



なぜか。理由の1つに、FW⑰永里の台頭が挙げられる。CL決勝までに、同大会で8試合で9ゴールを記録した同選手は、ピッチ内レベルで完全にチームの信頼を勝ち取り、エースにまで成長していた。


この“覇権”を、⑩バイラマイから強奪してしまったのだ。


動物的なチームでは、こういったことが起こり得る。


おそらく、ポツダム自体も、マンネリ化し始めていたのだと思う。新陳代謝を、本能的に求めていたドイツ王者は、日出ずる国からやって来た“大和撫子”の純粋なポテンシャルに、どこか賭けたがっていたのではないか。



そして、この“なでしこ”は、今季見事にこの期待に応える活躍を見せた。それだけに、決勝の欠場は、本人はおろかチーム、スタッフ全員にとって痛みを共有する出来事だっただろう。




そして、その衝撃は、「バイラマイ依存症」までも、打ち破ってしまった。



⑩バイラマイは、典型的なドリブラーだ。自らプレーを生み出すことを好む選手であり、周囲の良さを引き出したり、周囲との関係性で自らを変幻自在に表現するタイプの選手ではない。



この試合、覇権を託された⑩バイラマイは、明らかに当惑していた。同選手のプレーは、ポツダムのゲームリズムから逆算されたプレーでは、なかった。



具体的に言えば、押し込まれる展開で、ポツダムがようやく奪ったボールを前線につけると、同選手は前にドリブルしていってしまう。そして、時に不用意にボールを失ってしまう。



これは、ポツダム守備陣が上がる時間を作れない、という現象を巻き起こした。



奪っても、奪っても、逆カウンターの恐怖に怯えなければならない。これは、ボールを保持されているチームとしては、最も嫌な展開だ。




さらにリヨンは、この⑩バイラマイのことを、非常によく研究していた。ドリブルのスピードを殺し、リズムを止め、スペースを潰し、奪い所に誘導した。


戦術的に優れた他のチームと同様に、リヨンも相手の長所を短所にしてしまう集団としての規律を見せた。


    現象と結果と必然と



結果


リヨン2-0ポツダム



現象は、必然だった。




前半27分、リヨンは右CKから先制する。


ファーサイドに蹴られたボールを中央に折り返し、これを頭で押し込んでゴールを奪った。




そもそも、このCK自体、リヨンの覇権を握った右WG⑫CFW⑧の突破から、生み出されたものだ。



これが、必然現象その①である。



後半、ポツダムも逆襲を試みる。


しかし、中心選手をうまく封じられ、ほかの選手がフリーになっても、決定機を生かしきれなかった。



すると82分、リヨンの逆カウンターが炸裂。


途中交代で入った左WG23が個人技でゴールを奪った。


活きの良い選手を止め切れるエネルギーは、最早、ポツダムDF陣に残されていなかった。



この逆カウンターも、必然現象その②だ。そもそも、守備から攻撃に移るリズムが、ポツダムは1試合を通じて噛み合っていなかった。




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敗者のポツダムの、セレモニー時の表情が、印象的だった。


切なさと、もどかしさと、やるせなさが、そこにはあった。



昨年と同カードで、同じ対戦相手に完敗するなど、ドイツ王者は予期していなかっただろう。



決勝まで進んだポツダムの夢は、一瞬にして水疱と化したのだ。



そして、永里。



今季、ドイツ王者のチーム内での覇権争いを制し、ゴールという結果で、強引にチームを決勝まで牽引した同選手のプレーを、見てみたかった。


著者は、敗戦後、チームメイトを労うように抱擁して回る同選手を見て、心の底からそう思った。


しかし、そう感じているのは、誰でもなく同選手自身だろう。



時は、前にしか進まない。もう、元には戻れない。



なによりも彼女には、ドイツW杯という身近な目標が、日本代表の誇りが託されている。



日本の全権を担った彼女を、見てみたい。


チーム状況によって、それが叶わなかったとしても、試合中の数%に、彼女のそれを見出したい。


それは、このピッチに足を運んだ自分の使命になるだろう。