バルサ5-1パナシナイコス


《頻繁なポジションチェンジ》

-人が動き、ボールも動くサッカー-

まさにそのお手本のようなサッカーを、この日のバルサは示した。この日のバルサで目に付いたのは、頻繁なポジションチェンジ。時にはペドロがセンターFWの位置にいたり、アウベスがアンカーの位置にいたり。もちろん今までも流れの中でポジションを変え、一定時間そこに留まることはあった。しかし、この試合のバルサは、昨季までのそれよりはるかにそこに“自由”を与えられているように映った。


バルサのサッカーが、なぜあれほどボールが回るのか。それは一人一人の個人の技術や能力が高いこともさることながら、“ポジショニング”が絶対的に良いからである。一人一人の立つ位置が抜群だから、“立っている”だけで周りの味方に最高のサポートをしているのだ。


だから、頻繁なポジションチェンジは好むところではない。それは、自らの首を絞めるようなものだ。ポジションチェンジを頻繁に行えば、その分時間はかかるし、攻撃のスピードアップに支障をきたす。これまでのバルサはそれをやらず、一人一人の素晴らしいポジショニングで各々に時間とスペースという自由を与え、個々がそれぞれのパフォーマンスを最大限に発揮することで、状況を一つ一つ打開してきたといえる。


その方が、今までのバルサからすると「話が早かった」のだ。


極端に言えば、メッシを右サイドに残し、なるべく彼にスペースを与えるようなポジションを周りがとり、彼にうまくボールを渡せば、相手DFが2人いようが3人いようが関係ない。一瞬で無効化する力がメッシにはある、ということをバルサの選手は全員わかっている。これは同様にチャビやイニエスタにも言えることだ。


しかし。この日のバルサは明らかに頻繁なポジションチェンジを図っていた。


もちろんポジションチェンジをすることのメリットもある。相手のマークが混乱し、ズレができてフリーになりやすいし、スペースも空きやすくなる。ただ、バルサほどボールを保持するチームになると、前述したように下手に動くと逆にパスコースを少なくし、流暢なパス回しに淀みが生じてしまう。おそらくペップはそのリスクを冒したくなかったから、これまでそれをやってこなかったのだろう。


だがどうだろう。この日、バルサはパス回しのリズムを落とすことなく、滑らかにポジションチェンジを行い、空いた隙間にパスをおもしろいように通し、パナシナイコスDF陣を文字通り“チンチン”にしていた。




《追い越し、飛び出し》

さらにこの日のバルサが素晴らしかったのは、追い越す動きや飛び出す動きがかなり意識的に行われていたことだ。


その中でも秀逸だったのがダニ・アウベス。左サイドや中盤で「ショート、ショート、ショート」が2,3本パンパン回ると、必ずといっていいほど右サイドのアウベスがメッシを追い越してスペースに走り込んでくる。それをチャビやブスケッツが見逃さずにフィード。通る、通らないよりもその動きが重要で、変化を生む。


驚いたのは、アウベスだけでなく、チャビやイニエスタ、メッシまでもがその動きを少なからず実践し、その意識を強く持っていたことだ。


バルサのボール回しは、足元だけでつないだ場合、相手がべた引きになり、必ず停滞する。


その停滞に変化を起こす一つの手段として、このような「追い越し」「飛び出し」は有効だ。今季のバルサがどれほどこの動きを意識し、徹底していけるかは、今後の見所の一つでもある。



《中途半端だったパナシナイコス》

確かにバルサは素晴らしかった。


しかし、同時にパナシナイコスはだらしなかった。


バルサ相手に、ただただ「べた引き」するなんて、今やもうナンセンス。戦術も何もないように思えた。


シセを前線に一人残して残り9人で守る。DF-4、MF-5。そんな数勘定で守りきれるほど、今のバルサの完成度は低くない。


バルサ相手に引いて守る場合、大事なのは「DFとDFの距離感」。つまり、PAラインに最終ラインを設定し、等間隔にDFを配置しなければならない。


この日のパナシナイコスはその点で、まったくもって守備組織が甘かった。一人一人の距離感が、遠い。


無論、ピッチレベルでバルサ相手にこれを90分実践するのは口で言うほど簡単ではない。個人技の高さ、「行ったらやられる」という恐怖感。


けれど、それを徹底しなければ今のバルサには勝てない。


久しぶりにバルサの強さを見せつけた試合となった。