「パスを回す」というイメージの強いスペインサッカーだが、実際は美しくパスを回しながらボールを保持し、相手を攻略するサッカーをするのはFCバルセロナのみだ。

あとのチームは、現実的に「ロングボール」と「つなぐ場面」を要所に使い分けながらゲームを構築していく。

エスパニョールでサイドMFとしてプレーしていた頃、中村俊輔はこう呟いた。「パスが来ないんですよね・・・」。

事実、先発出場が確約されていた最初の数試合のうちの一つ、第2節のR・マドリー戦では、初めてボールに触れるまでに6分30秒もの時間を要した。

これは、“チームの実力の差”が生み出すGAPから、劣勢に陥ったため余儀なくされた状況ではない。スペインの中位以下のチームでは、これが“普通”なのだ。

「パスが来ない」。これはスペイン人であろうと、同様の条件だ。

サイドMF(ウィング)であれば、1試合に自分の欲しいタイミングでボールが来るのは2,3度だ。

ボランチであれば、中盤の中央は激しい競り合いを余儀なくされる。チームがビルドアップする段階でCBもしくはSBからボールを受け、逆サイドに展開する、などという綺麗なプレーはスペインではバルサを抜きにして求められていないため、こちらも自分の欲しいタイミングでボールを受けるのは1試合のうち数回だろう。

FWなどもっと顕著だ。試合展開によっては自分のところに来るボールは全てクリアボール、良くてフィフティ・フィフティのボールしか来ない。エリア内に侵入することさえままならない状況も多々ある。しかし、その中で求められる役割は「ゴール」のみ。自分がどんなに良い動きをしても、そこにパスが来ることなどまずないと考えていいだろう。だからしばしば言われる「海外には独力でゴールできるストライカーが多い」というのは、理に適っている。なぜなら、そうしてゴールを奪える者のみが生き残っていける世界だからだ。

これが、スペインサッカーの現実。バルサのサッカーとスペイン代表のサッカーはスペインの最高のサッカーであり、この域に到達できたのはこの2チームのみ(代表はチームではないので実質バルサ1チームのみ)。

あとのチームはどこも「勝利至上主義」の大義名分のもと、“美しいサッカー”という理想を頭のどこかに抱えながらも、現実的なサッカーを選択しているのが現状だ。

それでは、この「パスの来ない」現状で、一体何をすべきか。

選手は、どんなプレーをすればいいのか。

監督は、どんな指導をすればいいのか。

どこを見れば、試合のポイントがつかめるのか。

そんなことを、これから徐々に紐解いていこうと思います。