ペップとイブラ抜きで戦わざるを得なかったこの試合。
結果から言えば、メッシの一人舞台となった。
―戦術的読解―
①バレンシアの狙い
②アンリの投入
③4-2-3-1
書いているうちに長くなったので、そのうち今日は①についての僕の見識を展開してみたいと思います。
①バレンシアの狙い
前半はバレンシアのゲームだった。
バレンシアの狙いは、端的に言えば、サイド攻撃とカウンター。
現在のバルサ相手に敷く戦術は2通りある。
(1)前線からプレッシングして、ボランチのコースを消し、CBにロングボールを蹴らせる
(2)引いて中盤付近まではボールを持たせ、PAラインに侵入しようとするパスを尽くカット
(1)は、90分を考えると、やり続けるとするならば相当な体力を要しなければならないことになる。もしくは、早いうちに高い位置で奪っての速攻で点を取り、優位にゲームを進める展開に持っていくか。リスクを冒すポイントは、「体力が続くうちに、試合の主導権を握れるか」。
この方法で成功したのが、1月初めに当たったビジャレアル。カンプ・ノウでこの戦術でバルサを慌てさせ、先制に成功し、あわやというところまでバルサを苦しめた。今季初めて、バルサを倒せる可能性を感じさせてくれたゲームであった。結果は1-1。
逆に、この方法で失敗したのが、テネリフェ。テネリフェホームで、前半からガンガンプレスを前から仕掛けた。バルサも虚を突かれ、前半20分ほどまでにGKと1対1の場面となる決定機を2度迎えた。しかしこれがバルデスのスーパーセーブに遭い、勢いを挫かれると、そこからは疲れが出始め、あれよあれよとバルサのタレントが大爆発。終わってみれば、メッシのハットトリックを含む5得点で、5-1。バルサの圧勝。
ここから見てとれるのは、(1)の戦術は、個のタレントを持ったチームでなければバルサ相手に有効化させるのは難しい、ということ。特に、“勝負”という意味では。ビジャレアルは、個の力でもリーグで5本の指に入るといっても過言ではないタレントを要している。体力的にも90分間持たせられたし、それはなぜかと言えば、個々の選手が「行き所」と「休み所」を熟知しているから。90分間プレスをかけ続ける体力を持ったチームなど、世界中に存在しない。
(2)の戦術は、よくCLで当たるチームがバルサ相手に敷く戦術。
最も良き例は、チェルシー。引いてDFラインをPAラインに設定。FWがプレスを始めるのは、自陣に入ってから。中盤ではボールを持たせ、FWラインにボールを入れたところで、徹底的に潰しに行く。日本での戦術的表現を敢えて使って言うならば、「リトリート」と呼ばれる戦術だ。
この戦術のリスクを冒すポイントは、「バルサにアタッキングサードで1対1を許してしまう」こと。特に、サイドのエリアで。なぜなら、GAPを空けないようにライン間の距離を密接につながなければならないため、どうしてもサイドを空けなければならない。そして、バルサのサイドには言わずもがなメッシがいる。もう一つは、「PAライン前でのFKを与える危険性が高い」こと。これは特にバルサに中盤での前を向いたプレーを容易にさせないためで、そのためにはファウルギリギリのチャージを仕掛けなければ彼らは止められないことを意味する。
昨年のCL。チェルシーは、メッシの1対1を受け入れることと、FKのリスクを負った。
メッシの相手をしたのは、A・コール。そのスピードで、狭いエリアに追い込んでいるとはいえよくメッシを防いでいた。そこも駆け引きで、タテに行かれる分には仕方がない。メッシの右足のクロスなら、ゴール前でテリーとアレックスのCBが跳ね返す可能性が高い。しかし、メッシが中に切り込んで、“シュート”、“ワン・ツー”、“ドリブル”の3つの選択肢を左足で持った時に。バルサの攻撃に破壊的な効果を与える。
チェルシーの戦術は99%機能し、成功していた。実際、あれは完全にホームとアウェー、2試合ともチェルシーのゲームだった。バルサは最後のイニエスタのGolazo(スーパーシュート)以外、決定機らしい決定機を作らせてもらえなかった。
バレンシアがこの日採った戦術は、(2)。簡潔に言えば、「引いて守ってカウンター」。
しかし、チェルシーほどガッツリ引くのではなく、ラインの上げ下げは臨機応変に対応。
そして、そのカウンターをバルサのSBが上がったスペースに喰らわす、という算段だ。これが即ち「サイド攻撃とカウンター」の本質だ。
バルサは前半、手をこまねいていた。イブラがいないことで、前線に起点が作れない。この日の3トップは、メッシを真ん中に、右ペドロ、左ボージャン。高さもなく、動きでうまく深みも作れなかったこの3トップ。前線がうまく機能せず、DFと中盤がパスコースに迷っているうちに、バレンシアが勢いに乗ってプレスとカウンターを仕掛ける。これにはバルサも面喰らった。
バルサが戸惑っているうちに、バレンシアは右のパブロと左のジョルディ・アルバを起点にどんどんサイドを攻める。SBのブルーノとミゲルもガンガン上がってきて、完全にサイドを制圧。右から左から、クロスが上がる。そしてその攻撃に、シウバが独自のセンスでアクセントを加える。
もし前半のうちにバレンシアが先制していたら。ビジャというフィニッシャーと、マタというアタッカーを欠いた“飛車角落ち”のバレンシアに、苦汁をなめさせられる結果になった可能性はあった。もし前半にスコアが動いていたら、このゲームは全く違う様相になっていただろう。3-0という結果論で導かれるほど、この試合の本質は甘くなかったと、僕は分析する。