前節のラシン戦後、ホームで4-0の快勝も、≪バルサの創世者≫クライフに「最悪の試合だった」と苦言を呈されたペップ・バルサ。そのクライフを見返すかのように、この試合のバルサはまたしても強さを見せつける。

ペップは奇策に出た。

新たなフォーメーションを敷いてきた。

4-2-3-1。チャビの言葉を借りるなら、4-2-4だ。

DFラインはいつもの通り4バックだが、中盤をダブルボランチにしてブスケッツとチャビを配置。前線は右にペドロ、左にイニエスタ。センターFWにイブラ。その近く、トップ下気味にメッシを配置。

これが、4-2-3-1(4-2-4)の正体。

形としては、4-2-3-1なんだけど、メッシがトップ下に位置しながらも守備をしないことを考えれば、チャビの印象の4-2-4と言う方が、選手の感覚的な解釈としては正しいのかもしれない。

試合後のペップの言葉を借りるなら、その狙いは

「ここ数試合、メッシが攻撃にうまく参加できていなかったため、中央に配置してよりボールに絡めるようにした」

メッシが中央にいることで、右サイドにいるペドロはサイドに張ってスペースを広げる役割を全うすることになる。そしてこの日復帰したダニ・アウベスの攻撃参加で、サイド攻撃は厚みを増した。しかし、新しいフォーメーションはやはりバルサの選手と言えど戸惑いを隠せず、前半は“消えて”しまう選手も存在した。ペドロはその典型で、前半30分過ぎまでほぼ画面に出てこなかった。

「ピケとブスケッツに、タテパスを入れる選択肢を持たせたかった」

ペップはこうも語った。

確かにこの日のピケは、タテパスを入れるシーンが多かった。いや、もっと言ってしまえば「近くに見えるところにしかパスを出していなかった」と言える。それは、後半のバルサの停滞を生み出す原因の一つとなった。どういうことかといえば、「近くに見える」ブスケッツ、チャビ、アウベスへのショートパスに腐心し、「見えない遠く」のイニエスタやペドロの両ウィングに配給されるロングフィードがほぼ一本もなかったのだ。

これではバルサはただの「ボール回し」のチームに終始してしまう。

バルサがなぜあれだけボールを回しながら、かつ決定機を演出し、ゴールを奪えるのか。

それは、

「才能(個の力)」「スペースメイキング」「攻撃のスピードアップ」

この3つが絶妙に織りなされているからだ。

このうち、最近最もテーマにあがるのが、「スペースメイキング」。

バルサがスペースメイキングするのに、重要な項目が二つある。

センターバックのロングフィード(特に逆サイドのウィングに向けて)

3トップのオフ・ザ・ボールでの相手DFラインとの駆け引き

①に関して言えば、「なぜバルサがマルケスを評価しているのか」と言うことを考えれば答えは一目瞭然だろう。マルケスは、明らかにスピードも衰え、DFとしての能力はトップレベルに関して言うなら疑問を残さざるを得ないレベルのパフォーマンスに終始している。しかし、バルサはマルケスを評価する。なぜか?

それは、マルケスが「遠くを見る目」を持っているからだ。そして、マルケスは長くシーズンをバルセロナで過ごしたキャリアによって、“バルサスタイルに合わせてのその目の使用法”なるものを体得した。

つまり、マルケスはバルサのフットボールを崩さず、かつ最も効果的に「遠くを見る目」を発揮し、ロングフィードの効果をピッチ上で体現するのだ。それは今やバルサのフットボールに欠かせないものになっている。

局面だけを見るならば、マルケスはミスが多い。特にパスミス、ロングフィードのミスの多さも際立っている。ラインを割ってしまったり、大きくズレたり。

ただ、90分を通して見た時に、驚くことにマルケスのロングフィードによってバルサは中盤のスペースを勝ち取り、高いボールポゼッションを成功させる。これは、おそらくあまり人々が気付いていない“バルサ・マジック”の一つだ。バルサの中盤の構成力に関しては、チャビのオーガナイズ能力に加え、マルケスのロングフィードによる“スペースの獲得”が大きな役割を占めている。

②に関して言えば、イブラの獲得とアンリを重宝していることでその意味の重大さがわかると思う。この二人は、単なるFWではない。世界屈指の“インテリジェンス”を伴ったFWだ。相手DFとの駆け引きに優れ、こちらも90分を通した時に、相手DFラインを下げ、中盤のスペースを生み出すことに成功している。こちらは“動き”によってスペースを勝ち取ることができる選手たちである。

この日のバルサは、以上2点から考えれば、物足りなかった。ピケは、おそらくペップに「メッシを意識してタテパスを入れるように」と指示されていたのだろうけど、あんなに近くばかりにパスしていたらゲームは停滞してしまう。

ただ、圧巻だったのは、バルサの2得点だ。

この日のバルサは、明らかに運に見放されていた。最後の局面でマラガDFが体を張って防いでいたことは称賛に値するが、前半から「崩した」場面でもちょっとボールが合わなかったり、タイミングがずれてゴールに至らないシーンがいくつもあった。

そして、いつものバルサの通り、「決まらないマンネリ」が起こってしまった。

それを払拭したのが、まずペドロのgolazo(スーパーゴール)。

あの瞬間、あの位置から、シュートを狙ってくるなんて誰も予想していなかった。

それに加えあの球威、パンチ力。

あれは完全なる「個の力」だ。

そして、2点目。

驚異的だった、チャビのスルーパス。

チャビのあのスルーパスが出された瞬間、全部で何人のDFがチャビの前、つまりPA付近よりマラガ自陣にいたと思いますか?

10人。10人いたんです。1人を除いた全ての選手が守備に徹していたのです。それをチャビは、一本のパスで無効化してしまった。

それにはその前の左サイドでのワンタッチでのパス交換、ペドロ―イブラ―マクスウェルのトライアングルでのパス交換がマラガDFの“目”を食い付かせたことと、アウベスの“2列目の飛び出し”があったのですが、それを含めてもやはりチャビのパスですね。あの瞬間、あのタイミングであそこにスペースを見出してあのパスを出せることは恐ろしい。

90分近く、あの質の高いゲームをオーガナイズしつつ、です。

ホンモノのCrack(最高の選手)ですね。ワールドクラスです。

ペップは試合後、「この調子ならチャンピオンは見えてきた」と試合内容に満足していた様子。確かに、この不運とマンネリ、悪い流れの中でもあれだけのフットボールを展開して勝利したことはバルサの強さの証明でもある。

試合後、多くの選手が勝利によって自信を深めたコメントを残している。大部分が、「システムの変更がプラスに作用した」と。

CLではホーム、カンプ・ノウにシュツゥットガルトを迎えての第2戦。そして、リーガは大詰めに向かい、約1カ月後に“事実上の決勝戦”R・マドリーのホーム、サンチャゴ・ベルナベウで“世紀のクラシコ”が待っている。

バルサの結末やいかに。