≪11対11→10対11→9対11=9対12≫

バルサは、前半早々にピケが一発退場になり、10人で65分近くをプレーした。試合終了間際には更にマルケスがPKを献上し一発退場。明らかに誤審を続ける主審。ピッチにはもう一人の“敵”が潜んでいた。ホーム、カンプ・ノウは容赦のないほどのプレッシャーを与え続けるも、現実にはホームにも拘らずバルサに不都合な“笛”が幾度となく吹かれることになった。しかしながら、バルサは2-1という勝利を得た。


一番上から見ていた僕は、正直言ってバルサが一人少ないことなどほとんど感じなかった。不思議なほどに、「試合」として90分フットボールを見ることができた。こんなことは、現在世界で有数のクラブの中でもバルサにしかできないのではないだろうか。



≪脈々と流れる“フィロソフィー”≫

恐るべきは、バルサが一人少ない状況ですら、“バルサのフットボール”をしたことだ。


それは、いつもに比べればボール支配率は少なかった。我慢する時間帯も多かった。全体の支配率は51%。しかしこれは一人少ない状況を考えれば、それでも同率の支配率を抱えていることは驚愕に値する。


それは、彼らは彼らのフットボールをした証である。彼らは彼らの哲学を貫き、そして勝利した。


一人少なかろうが、自陣からボールをポゼッションしていく。個人個人が、1対1で相手を剥がしていく。ボールをそうして前に運ぶ。隙あらば、その間隙を突いて一気にフィニッシュに持っていく。


これは、一朝一夕で成せる業ではない。


バルサには1970年代にクライフがやってきた頃から、脈々と流れる“バルサのフィロソフィー”が存在する。つまり、ボールをつなぎ、美しいフットボールを展開し、観客を魅了し、そして勝利する。


「美しく勝利せよ」


これがバルサに最も強烈に刷り込まれたクライフのメッセージである。


40年の悠久の時を経て、今、“クライフイズム”の継承者であるペップ・グアルディオラによってその“美しく勝利する”バルサのフットボールは再現されている。



≪4-3-2→4-4-1(フラット)→4-3-1-1→4-4-1(フラット)≫

10人になってからのバルサを見てみる。


まず、ペップはトゥーレをCBに下げた。そして、イニエスタを中盤の左サイド気味に下げ、ケイタをアンカーのポジションに配置し、チャビとともに中盤の3枚を構成。中盤の3人の構成はいつもと変わらず1アンカー+前に2枚オーガナイザーを置く形。前線にはメッシとイブラの2トップ。


これはあまり機能しなかった。


なぜなら、メッシが守備しないため、イブラが守備に引いてきてヘタフェのアンカー役のボテングワをマークする羽目になり、加えて前線の動き出しもイブラのオフ・ザ・ボール頼りになってイブラの労働が倍増。


おそらくペップは前線に高いイブラと速いメッシを置いてその“強力2トップ”で前線に起点を作って押し込もうと思ったんだろうけど・・・。いつもなら相手DFラインを下げるのはイブラとアンリのオフ・ザ・ボールの仕事だから、イブラがそこを疎かにしたらヘタフェはぐいぐいラインを上げてきた。


で、バルサは奪ってもプレッシャーがきつすぎてスペースがない中でパスの出しどころがない。


前半は我慢。ペップはそう判断した。メッシに右のサイドの守備にもっと従事するよう指示。形としては、メッシを右サイドMFに下げてイブラの1トップという4-4-1(中盤フラット)が急造で象られた。



後半になり、ペップはさらに策を講じてきた。


守備が苦手なメッシを1トップ。当面は攻撃はメッシのスピード頼み。そしてイブラをトップ下に下げ4-3-1-1の形。


これは前半の急造4-3-2、4-4-1よりも機能したが、実際はイブラを相手アンカーを見やすい位置に下げただけ。ペップは様子見でこの戦術を試したが、イマイチ機能しないと見るや、すぐに次の手を打った。


5分過ぎたところで、イブラに代えブスケッツを投入。右からイニエスタ、チャビ、ブスケッツ、ケイタというオールラウンドなMFたちでフラットなMFラインの4-4-1を形成。


これにより役割が明確になったバルサは、再び輝きを取り戻す。


美しいボール回しこそないものの、要所要所のパスワークの冴えと個人の技術の高さによるボール保持率は圧巻。さらに、カウンターに移る早さとその鋭い崩しを見ているととてもではないが一人少ないチームには見えない。


直後に久しぶりのCBのトゥーレがやはり不慣れなプレーを見せ始めたので、本職のマルケスと交代。


マルケスは2点目のゴールを生むきっかけとなるフィードをチャビに供給。試合勘を取り戻してきていることを証明。最後にPKを献上し、一発退場となったものの、あの判定は誰もが不服に思うであろう“不可抗力なファウル”であった。



≪やはり強いバルサ≫

ヘタフェは今季好調で、リーガでもUEFA杯圏内の6位を狙える中位をキープ。コパ・デル・レイ(スペイン国王杯)でもベスト4に進出しているなどチーム力の高さはリーガでも折り紙つきだ。


そのヘタフェを相手に、ホームとはいえ1人少ない状況で、あのフットボールをして、勝利。


次元が違う。


この日のバルサを見ていて、「これが真のフットボールなんだろうな」と思った。これは一般人がお金を払っても見に行く価値があるし、時間を削ってでも試合を応援する価値があるよ。


“審判問題”が現在リーガでは巻き起こっている。それはまた今度語るとして、審判が不利な判定をしようが何をしようが、今のバルサはあらゆる苦境を乗り越えてすべてを勝ち取ってしまうほどの逞しさや図太さを含めた圧倒的な強さがあるのではないか、と思わせてくれた試合だった。




そしてそれは同時に、異国でもがき苦しむ自分に「絶対的な強さを持て」と強烈な激励にも思えるメッセージ性を伴った試合だった。