A・マドリー。リーガでも随一の資金力と人気を誇る有数のクラブである。
“本家マドリー”、R・マドリーほどの豪華メンバーとまでは行かなくとも、前線にはアルゼンチン代表のアグエロとウルグアイ代表のフォルラン、ポルトガル代表のシモンやかつてR・マドリーで優勝を経験したレジェスなど錚々たる顔ぶれが揃っている。
しかし、勝てない。そして、つまらないサッカーをする。
「タレント頼みの退屈なサッカー」
A・マドリーをそう形容する人が少なくはなかった。
だがしかし。相次ぐトラブルや監督交代というスペインお得意のドダバタ劇を演じた後、新しく監督に指名されたのはキケ・フローレス。
それからしばらくは勝てない試合が続き、CLは予選で早々と敗退が決定。サポーターからも愛想をつかされかけたキケ・アトレティコだったが、ここ数試合で何かが変わり始めている。
≪“退屈なサッカー”の本質≫
キケが来る前のA・マドリーには、サッカースタイルも戦術も皆無だったといっていい。少なくとも、見ている側に伝わってくるほどのチームコンセプトはなかった。
なまじ質の高い選手を揃えた時に起こりがちな問題。“意味のないボールポゼッション”である。選手はボールを持ちたい。自分の技術を披露したい。ボールを保持し主導権を握り、守備の時間を少なくして楽して勝ちたい。
その結果、チームの攻撃はいつもリズムの変わらない遅攻になり、テンポのないサッカーは見ているものに退屈な印象を与え、相手チームに守備の体型を整える時間を提供する。
「ボールは持っているんだけど、のらりくらりと動くだけで、ゴールも決まらなければ怖さもないサッカー」
まるでどこかの代表のような、勝てないサッカー。これがアトレティコにつきまとっていた“退屈なサッカー”の正体だ。
≪縦に速いサッカー≫
アトレティコはキケが来て変わった。
何が変わったのか。
一言でいえば、“縦に速いサッカー”というコンセプトのもと全員が連動して動くようになったのだ。
前節のホームでのスポルティング戦。その2点目に、そのサッカーが完全な形で体現された。
コーナーキックのこぼれ球を自陣PA付近で拾ったフォルランは、すかさず2タッチで前線にいたレジェスにボールを預けると、自らは前に直進猛ダッシュ。センターサークルでボールを受けたレジェスも、簡単に前を向き、2タッチ目で右サイドを駆け抜けてきたウルファルシにパスを展開。このカウンターに全力疾走で駆け上がってきたこの右サイドバックも、PA角付近から間髪いれずに2タッチ目でクロスをファーサイドに送る。そしてここで現れたのがなんと数秒前にレジェスにパスをはたいたフォルラン。このゴールラインぎりぎりのボールを中に折り返すと、最後に飛び込んできたのはボランチのアスンソン。ダイレクトシュートでゴールを決めた。
この速くてダイナミックなカウンターに、スポルティングDF陣はまったく付いていけなかった。僅か10秒足らず、8タッチで自陣からゴールまでのカウンターを4人の選手で決めてしまったのだ。
≪ダイナミックで勢いのある、“おもしろい”サッカー≫
これ以外にも、何度もその象徴的なシーンが現れた。そのサッカーには、確かなコンセプトが感じられたし、選手はそのコンセプトのもと一致団結して躍動した。
なにより、見ていておもしろかった。アトレティコのサッカーにそれを感じたことは、スペインに来て2年、初めてのことだった。
選手は、よく走っていた。前に速く、かつ技術的なミスなく、奪われたらプレスをかけにいく。その運動量は、相手だけでなく観る者をも凌駕した。
あれだけの質の高い選手が、あれだけ泥臭く走って、戦って、確かなコンセプトのもと一致団結して試合に臨んだら、そうそう勝てる相手はいないのではあろうか。
≪逆襲の時、来る≫
今まで「つまらないサッカー」と揶揄され、その選手の質をもってして11位と“低迷”しているアトレティコが、後半戦「おもしろいサッカー」でリーガで旋風を巻き起こすかもしれない。
そんな期待を抱かせるゲームを、昨日のスポルティング戦で彼らは存分にピッチで体現した。