クラシコの映像を手に入れ、全部見ました。
正直、バルサの完勝でしたが、今年のマドリーとバルサの差は去年に比べれば圧倒的に少ない。それもあれだけの選手を大幅に入れ替えての急造チームであそこまでのサッカーをしてくるから、やはりマドリーは恐ろしい。
≪マドリーのプレスとカウンター≫
前半はマドリーのペースだったと言っていい。中盤での厳しいプレスから速い攻め。明らかにバルサよりも決定機を創っていた。特に前半10分~30分くらいは完全にマドリーのリズム。カカーとロナウドが躍動。バルデスのロナウドの1対1を止めたビッグセーブとプジョルの身を投げ出してのシュートブロックがなかったら試合は終わっていた。
≪アンリのオフサイド≫
この日はまだ怪我を抱えるイブラをペップは温存。先発の3トップは左イニエスタ、右メッシ、真ん中アンリ。
翌日の新聞では、「アンリはオフサイドにかかりすぎだ」という批判とともにアンリは退場したブスケッツと同じチーム最低の評価「5」(10点満点)。しかし、僕にはそのアンリの動きが決して無駄ではないように見えた。
アレをやらないと、バルサはダメ。停滞する。“アレ”とは、つまりスペースへの飛び出し。
前半から、これをやっていたのはアンリ、ダニ・アウベス、チャビ、ケイタ。これがなかったら、バルサのボール回しはさらに停滞していたと思う。
それがあったから、リズムの悪い中バルサはゲームを手放さずにつなぐことができた。
≪ブスケッツの“魂”と“守備のポジショニング”≫
この日後半よもやの退場となり、あわや戦犯扱いをされかけたブスケッツだが、その気迫は前半から並々ならぬものがあった。
「絶対ロナウドを潰す。なにがあってもこいつは俺が潰す」。そういう気迫が、画面からでも見てとれた。1試合を通じて、一番戦っていたのは彼だったと僕は思う。2枚目のイエローとなったハンドは確かに「不必要」と非難されたが、それすらゲームのオマケ的要素でしかなかったと思う。
試合を見ていて、不思議とバルサが10人になっても、負ける気がしなかった。その時点で、既にマドリーの脅威はロナウドただ一人になりかけていたし、そのロナウドも怪我を抱えているため途中交代。その辺で完全にバルサが流れを掌握した感があった。
おそるべしは、ブスケッツの守備時のポジショニング。試合ごとに、良くなっている。相手の攻撃を、特にカウンターを摘み取るところに確実に“立っている”。ハンドをした場面も、相手の右サイドにフリーの選手がいるとわかっていてハンドしている。あれは実際、なかなかピッチ上で把握できることではない。
≪アウベス、イニエスタ。戻ってきたCRACKSたちの輝き≫
アウベスは持ち前の運動量とピンポイントクロスが戻ってきた。「鉄人」と称された彼も今年は代表戦やらで休みなし。今季初めには例年にない「筋肉系の怪我」も患った。
しかしこの日は、完全に本来のパフォーマンスを披露。やはり、右SBというポジションでありながら試合を決定付けることのできる稀有な選手である、ということを改めて証明した。
そして、イニエスタ。
こちらはうっとりするようなボール扱いと身のこなしで中盤を舞うようにマドリーの選手たちを翻弄。
それはもうボールが取れない。「ドン・イニエスタ」という異名を授かるに恥じないパフォーマンス、輝きを取り戻したことを見せつけ、バルサファンを安心させた。
≪プジョールという厚き壁≫
そして最後に、プジョールの活躍に触れておく。
翌日の新聞はこぞってこの日のマン・オブ・ザ・マッチにプジョールを選出。中には、見出しを「プジョール、ハットトリック」という見出しで打って出る新聞もあったほど。どういうことかといえば、確実な決定機を3発防いだ、ということだ。
これはおおげさではなく、確かにプジョールは、エリア内で確実に枠内に飛んで行っていた強烈なシュートを3つブロックしている。激しく、そしてクリーンに、身体を投げ出しシュートコースにスライディングしてシュートをブロック。何度となく、悲鳴とともに顔を覆ったバルサファンに安堵の表情を送り届けた。
“ティブロン”(鮫)とバルサで呼ばれる偉大なキャプテンは、一人だけクラシコの戦い方を熟知している経験を見せつけた。
「ワールドクラスのDF」というものを、まざまざと見せつけられ、「まだまだ差は大きいな」と僕はひどく実感した。あの場面、あの速さの展開で、あのポイントを危機察知能力で感じ、あそこに身を投げ出していける勇気と判断を持ち合わせたDFというのは、世界でも有数だ。
1-0という最小限のスコアでクラシコを終えたバルサだが、そのフットボールの質は、確かに今でも“世界一”を誇ることのできる高いものだということを改めて世界中に知らしめた。