スペインのサイドアタッカーに求められること。それは、日本のソレとはちょっと違う気がします。


僕は、今スペインでサイドをやっています。フォーメーションにもよるんですが、基本的には4-4-2ないし4-2-3-1。もしくは4-3-3になるときもあります。


4-4-2なら「4」のフラットのMFのサイド。4-2-3-1なら「3」のサイドMF。4-3-3ならWGになります。


ただ、どのフォーメーションでも、サイドの選手に求められること。


それは、


「ボールを深い位置に運ぶこと」


です。


つまり、自分がスペースに飛び出してボールを引き出すなり、独力で突破してサイドを切り裂くなり、とにかくボールをピッチのfound(深い位置)に持っていく。


それによってチームにどんな恩恵がもたらされるのか。


DFはラインを引き上げることに成功し、中盤はより高い位置でのボール保持とオーガナイズに集中でき、FWはよりゴールに近い位置でのプレーが可能になります。要は、「ゴールする確率が高くなる」ということです。



フットボールはシンプルです。


僕は本当に思います。


理論や戦術も良い。だが、それは本当にフットボールの本質なのか?と。


スペインに来て2年。現時点での僕の答えは「ノー」です。


理論や戦術は重要です。ですが、それは後付けにすぎないのです。なぜ試合に勝てないのか、という理由は戦術的な試合分析のみによって語られるのではありません。それは、間違いであると、僕は思います。



テーマを戻します。


例えば今、エスパニョールで、足りないと言われているものが2つあります。


・「ゴール」


・「サイドの選手の深い位置への入り込み」


この2つが足りないと言われています。


ゴールは数字を見れば明らか。10試合で8ゴールしかあげていない。そのうち、ノーゴールに終わった試合は6試合に及びます。


そして、ならなぜゴールが入らないのか。


そこでポイントになってくるのが、「サイドの選手の深い位置への入り込み」です。


これは、中村俊輔がエスパニョールでサイドMFとしてレギュラーポジションを失ったことと無関係ではありません。シュンスケからレギュラーを奪ったF・マルケスは、この点での評価が非常に高い。「電流の如く」「爆発的に」サイドを制圧する、という評価を受けていて、それは今まさに「エスパニョールに足りないもの」なのです。


当のシュンスケはというと、日本の評価では「サイドでボールが持てる」「タメが作れる」「スルーパスが出せる」などと言っていますが、正直そんなものここでは何の評価の対象にはなりません。


彼のプレースタイルでは、監督が変わろうが、チームが変わろうが、ここスペインでサイドで成功することは難しいでしょう。かのベッカムでさえ、「キック」を売りにサイドアタッカーとして世界でも有数な評価を受けていたにもかかわらず、R・マドリーで中盤のセンターでのプレーを余儀なくされた経緯がありますので。


つまり、日本で求められているような、


「キックのうまさ」


「キープ力」


「運動量」


「スピード」


そういったものはここスペインではとりわけ求められていません。良い悪いではなく、需要がないのです。


まぁ別にこれが無駄なわけではないのです。



ここが日本とスペインの決定的な違いなのですが、


「ボールを深い位置に運ぶ」という結果さえ得られれば手段はどうでもよい


要は、ボールを深い位置に運ぶために、スピードで相手を振り切ろうが、動きで相手の裏を取ろうが、ドリブルで突破しようが、運動量で勝ろうが、どれでもよいのです。


ただ、この辺がとても日本人の苦手なところで、とてもマニュアル的に考えてしまうのですね。


僕も最初は本当に苦労しました。日本にいた時は、正直ボールを失わずにパスできて、上下に走れればそれで評価されましたから(笑)


なので、こちらにきてドリブルを身につけたし、それも「突破型」に改良したし、いかに自分のスピードを最大限に活かして相手の深い位置でボールを受けられるかも常に考えるようになりました。


これに加えて、やはり求められてくるもの、それが「ゴール」ですね。これができると、「差別化」になります。つまり、他に比べて一歩抜きんでることができる、ということです。


僕のイメージは、バルセロナのペドロのようなゴールの取り方をすることです。ピッチで、常に「ゴールできる位置」というものを嗅ぎ分けている。その泥臭さ、ゴールへの執念・執着心が、あの一瞬でのこぼれ球への反応に対してだれよりも体を速く反応させるのです。


彼のような選手は、バルセロナにも、おそらくそれ以外にもゴマンといる。彼には、それが本能的にわかるのでしょう。そしてその本能が、彼をゴールに対し貪欲にさせ、その姿勢がゴールを生み出すのです。もし彼にそれがなかったら、その他の何万という選手とともに埋もれてしまうでしょう。それを、おそらく彼はわかっているのです。体で知っているのです。


僕も、この夏トライアウトで受けた全てのチームで不合格を受けました。そこで、ようやく悟ることができたのです。「差なんてない。だからこそ、差別化をはかるためにゴールという結果を積み続けなければならない」と。



フットボールは、チャンスがあるときに結果を出してそのチャンスをつかまなければなりません。


中村俊輔に関して言うならば、彼にはまだチャンスが与えられています。


結果を出すことです。ゴールを取ることです。


彼ならできるはずです。そして、それこそが唯一といっていい、チームが彼に求めていることです。「FKでのゴール」。


CLの舞台で、マンU相手にFKを決めたのはフロックではないはずです。今こそ、あの実力を、あの集中力を、発揮するときです。力を解き放つときなのです。


日本で1番の選手を。世界で最高のリーグで。この壁を突破する瞬間を目撃したい。


明日はそんなシュンスケを、コパ・デル・レイ(国王杯)で現地スタジアムで生観戦してきたいと思います。