ペップがまた新しい試みを仕掛けてきた。 メッシ、イニエスタ、チャビの3人を一気に休ませる決断をした。
こうなってくると、気になるのは「中盤の構成力」。さぁ。いかがなものか。
試合が始まると、やはりバルサのボール回しは停滞。中盤でいつも舵取りをするチャビがいないことが、チームへの混乱を招く。やはりまだブスケッツにはそういったオーガナイズする能力は足らないのかな、と思う。もちろん以前に比べればボールを失わなくなったし、そういった意味では信頼できるMFではある。だがしかし、自分でゲームビジョンを組み立てながら、「ピッチのどこにボールを運ぶべきか」という判断がまだまだ不足している。
ここ最近の取り組みと同じく、この日中盤の底に入ったヤヤ・トゥーレがピケとチグリンスキの2枚の間に入って最終ラインの3枚でボールを動かす。だがしかし、いまいちペップの「狙いどころ」が僕には見えない。どこから、攻めたいのか。それがよくわからなかった。
好調時のバルサであれば、個々の能力を如何なく発揮する中で、個人、あるいはグループの戦術で相手チームの「穴」を見つけ、そこから攻め込むことが可能だった。もっと言えば、「個の力」で局面を打開する術を携えていたので、その面での苦労というものがなかった。
しかし、今のバルサは、そうじゃない。3人のCRACKSを一挙に外したことも含めて、これは一つのペップの挑戦であったのだろうという気がした。
と、戦術的に言えば、「DFラインのボールの出し所の悪さ(パスコースのなさ)」「中盤の構成力」「3トップの関係で深さがつくれないこと」 くらいの大雑把な理由が頭に浮かんできたが、そういう見方をしていてはつまらないと思い、途中でそれを払拭。どうせ最近こんなに試合を見ているのだし、「違うものの見方」ってやつを身につけようと思い立つ。これは僕の個人的な挑戦。
≪パススピード≫
なんだか見ていて「パススピードが遅いな」と感じた。特にピケとチグリンスキの出すパスが緩い。リズムが変わらないし、テンポが変わらない。
≪「天候」という見えない敵≫
TVで観ていたら絶対にわからないことがある。そう、この日のカンプ・ノウスタジアムはかなりの強風。僕も前半途中まで気が付かなかった。ペップも試合後の会見で言っていたけど、やはり風の影響はあったようだ。オシムも日本代表監督の頃言っていたけど、「ピッチではあらゆることが起こりうる。荒れた芝、天候状態、審判の質。そういうものもすべて含めて対応しなければならない」ということだろう。
えてして日本人は「環境に負けてしまうのは技術のせいだ」と考えがちだ。確かに昔2001年にサンドニで日本代表がフランス代表に負けた時、大雨が降り注ぐ中でプレーの質が落ちてしまう日本代表選手たちに比べてフランス代表の選手たちは変わらずプレーしていた、という話があるが、それはあくまで当時の「日本代表」に比べてフランス代表が勝っていただけの話で、「プレーの質が変わらなかった」というお話ではないように思える。
本題に戻る。なぜなら、この日のバルサは明らかに風の影響でパス回しをうまくできていなかった。「天候の影響を受けるのは相手も同じ」なのだが、あのサッカースタイルに風や大雨などの悪天候はより強い影響力を及ばすように見える。
≪「喰いつかせるパス」と「喰いつかせないパス」≫
それにしても、最近のバルサを見ていて思うのは「パスの質」である。
速いパス、弱いパス、横パス、タテパス、ディアゴナルのパス、短いパス、長いパス・・・と、サッカーにはいろいろな「パス」があるのだが、ここでは焦点を絞って「喰いつかせるパス」と「喰いつかせないパス」について言及したい。
今のバルサには「喰いつかせるパス」が足らないと思う。確かに今季のバルサは昨季ほど良いサッカーをしていないが、ボールポゼッション率は依然として高い。おそらく昨々季より高いだろう。
だからこそ、今のバルサには「ボールを失うことを恐れず」に、「喰いつかせるパス」をもっとドンドン活用してほしい。
具体的に言えば、ゴール前。もっと強引な「タテパス」が欲しい。この前のCLのルビン・カザン戦の後半で、イブラがチャビに強引に出したタテパスが、コースがずれるもDFの処理ミスを誘発して決定的なシュートチャンスになったように、相手のDFが「嫌だ」と思うことをもっとしてほしい。僕はあのシーンを見たときに、イブラは「感覚的にサッカーを知っている」選手だと思った。
えてして技術のある選手というのは、綺麗に崩したがるものだ。もちろん綺麗に崩した方がファンも喜ぶし、相手チームに与える打撃も大きい。
≪バルサの「哲学」との戦い≫
だがしかし、今のバルサに必要なのは、あえてその「美しさ」を一度捨てることだ。バルサにとって、「美しいフットボール」は、数十年前から脈々と流れる「哲学」である。
しかし、昨季「3冠」という前人未到の偉業を達成し、新しい歴史を築いたバルサに、新たな挑戦が待っているような気がする。
確かにバルサにとっては、勝利よりも「美しさ」を優先する癖がある。それは、クライフがバルサに来て、その頃から築き上げてきたバルサの大切な哲学の一つだ。
けれども、現代サッカーはめまぐるしく移り変わってゆく。光陰矢のごとし、時代は前に進んでゆく。
「勝利至上主義」が叫ばれる中、バルサはその流れに乗りながら、かつ美しく去年ヨーロッパとスペインを制した。クラブW杯を待たずして、「世界最強のクラブ」になったと言って良いだろう。
その歴史を、踏み越える時が来た。
僕は思う。
結果(勝利)→過程(美しさ)→結果→過程・・・というサイクルで物事は回っていく。先に過程を持ってくると、論理的には合理に見えるが、実践的にはこれの方が難しいのではないか、と。
なので、今のバルサは、
結果(勝利)→過程(美しさ)・・・の後に、
→結果(美しさを一時的に捨てた泥臭い勝利)→過程(殻を破った、新たなスタイルのさらに美しいサッカー)
という構図を描いてほしいと思う。
≪まとめ≫
最後の説は、僕の個人的な願い。現実的にはもちろんすごく難しいことなんだとも思ってる。
それは単なる「理想」なんだって。
本当にスペインに来てから思う。「勝利すること」「結果を出すこと」というのは、こんなにも難しいものなのか、と。無駄に難しく、ややこしくする必要はないと思うが、しかしこれは実際本当に難しいことだといつも思う。
ただ、いちファンとして、サッカーというスポーツに期待するものとして、バルサのような偉大なクラブが、あの歴史を築いた後どういう流れになっていくのか非常に興味がる。
僕はそれを、ここ、バルセロナで感じたい。生の肌で吸収したい。
理屈ではなく、理論でもなく。その先にある「何か」を見出すために。